著者
滝川 鈴彦
出版者
大阪夕陽丘学園短期大学
雑誌
大阪女子学園短期大学紀要 (ISSN:02860570)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.137-146, 1965-07-01

カントの実践哲学における道徳と幸福との関係を問うことは,かれの人間把握の具体性を明らかにする上に,きわめて重晏な手掛りとなる問題である。筆者は,さきに,本紀要第4号において,「カントの道徳哲学における幸福の問題」と題する小論でこの問題をとりあげたのであるが,そこでは,もっぱら,カントの道徳哲学の主著である「道徳形而上学への基礎づけ」「実践理性批判」および「道徳形而上学」にみられる思想のあとづけを通して,カントの人間把握の真相を明らかにしようと努めた。本稿では,上記著作に先きだち,そしてカント自身,のちの道徳哲学上の各著作を予想せずにあらわしたといわれる「純粋理性批判」の,特にその中の「先験的方法論」にみられる道徳と幸福との関連についてとりあげてみたい。