著者
澤井 英夫
出版者
財団法人 日本消化器病学会
雑誌
消化器病学 (ISSN:21851158)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.179-210, 1944-03-10 (Released:2011-06-17)
参考文献数
134

癌患者ニ於ケル血液酸鹽基平衡ト癌腫ノ發生並ビニ發育トノ關係ハ近時著シク興味ヲ喚起シ, 之ニ關スル研究ハ多數發表サレタリ. サレド其ノ意見區々ニシテ未ダ確タル定説ハ無キモ, Moore. R. Balint, R. Reding等多數ノ學者ハ癌患者血液ニ「アルカリ」度増加ヲ認メ, de Raadt, Goldfeder等ハ動物實驗ニ於テ「アルカリ」性環境ノ癌腫ノ發育ヲ促進スルテ報告シ, 略ゝ此ノ方面ニ於ケル主流ヲナシ, 血液中豫備「アルカリ」量ニ關シテハ蜜ロ正常若シクハ輕度ニ減少ストノ説比較的多シ.茲ニ於イテ余ハ癌患者 (特ニ消化器) ノ血液ニ就キ, 水素瓦期電極法ニテ血漿pHヲ測定シ, Van Slykeノ檢壓法ニヨリテ血漿炭酸瓦斯抱容量ヲ求メ, 以テ其ノ血液酸盤基平衡ノ状態及ビ岡田教授ノ創製サレタル癌「エキス」注射ノ之ニ及ボス影響ヲ觀察シ, 次ノ成績ヲ得タリ.先ヅ34名ノ癌患者ニ就キ其ノ血液酸鹽基平衡状態ヲ檢索セルニ血漿pH最高7.74, 最低7.565, 平均7.665ニシテ健常値 (7.637) ニ比シ箸明ニ「アルカリ」側ニアリ.血漿炭酸瓦斯抱容量ハ最高69.218 Vol%, 最低46.347 Vol%, 平均59.072 Vol%ニシテ健常値 (60.415 Vol%) ニ比シ僅カ乍ラ低ク, 即チー般ニ「アルカロージス」ヲ呈シ特ニ瓦斯性ノモノ多キテ認メタリ.癌「エキス」注射ノ癌患者血液酸塩基季衡ニ及ボス影響ニ關シテハ22例ニ就キ癌「エキス」注射約10囘毎ニ観察セル結果17例 (77.3%) ニ於テ「アチドージス」ニ傾クヲ見, 内9例ハ瓦斯性ニシテ臨牀経過比較的良好, 内8例ハ非瓦斯性ニシテ経過概シテ不良ナリ. 爾餘ノ5例ハ (22.7%)「アルカロージス」ニ傾キ内3例ハ非瓦斯性ニシテ経過比較的遷延セリ.次ニ11例ニ就キ癌「エキス」注射ノ及ボス影響ヲ注射前・注射後1, 2, 4, 8時間ト時間的ニ觀察セル結果8例 (72.7%) ニ於テ「アルカロージス」性變化ヲ生ジ, 内6例 (54.5%) ハ瓦斯性ニシテ最モ多ク且其ノ變化ハ敦レモ注射後約2時間ニシテ最高潮ニ達シ8時間ニシテ略ゝ元ニ復セリ.而シテ其ノ變化ノ度ハ注射囘數ノ増加ト共ニ縮小スルヲ認メタリ. 即チ癌「エキス」反復注射ニヨリ患者體内ニハ癌「エキス」ニ對スル或種ノ抵抗力漸次増大スルモノノ如シ.