著者
澤田 吉孝
雑誌
京都学園大学経済経営学部論集
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-45, 2018-03-10

本稿の目的は、2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻後に実施された米国の量的金融緩和政策(QE政策)の有効性を定量的に分析することである。QE政策の第1弾(QE1)は2008年11月から2010年6月まで、第2弾(QE2)は2010年11月から2011年6月まで、第3弾(QE3)は2012年9月から2013年12月まで、そして2014年1月から同年10月まで緩和逓減が実施されている。米国のQE政策は20008年11月から6年間に渡って実施されてきたわけだが、この時期のデータのみを用いて回帰分析を行った場合には推計結果にバイアスを生じる可能性がある(小標本問題)。日本経済のQE政策を分析したHonda and Tachibana(2011)は、この「小標本問題」を回避するために、ダミー変数を用いて標本期間の拡大を行っている。そこで、われわれは彼らの方法を応用し、米国における金融政策の全体的な経済効果と、その波及経路を分析する。構造型ベクトル自己回帰モデル(SVARモデル)を用いた分析を通じて、次の3点が明らかとなった。第1に、QE政策は株価チャンネルを通じて生産高を増加させる。第2に、QE政策は、ボラティリティ指数で表される投資家の市場に対する不安感を緩和させ、株式に対するリスクテイクの向上につながる。第3に、生産高を増加させる効果は、QE3が最も大きく、次いでQE1が続く。つまり、これらの結果は、米国のQE政策が景気低迷を緩和する手段として有効であったことを示唆している。