著者
染谷信孝 澤田宏之 濱本 宏 諸星知広
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.66-76, 2020 (Released:2020-10-31)

軟腐病は,土壌伝染性の多犯性細菌病である。植物組織を軟化腐敗させ,その際には独特の臭気を伴う。我が国では主に野菜類の主産地で問題となり,気象条件によってしばしば大きな被害を生じる。病原細菌種は主にPectobacterium carotovorumおよびその亜種とされてきたが,近年の分類体系の変遷から,現在では10 種以上が軟腐病の病原となることが分かってきた。我が国において過去に軟腐病の病原として分離・同定されてきた細菌株についても,P. carotovorum以外の種が混在している可能性がある。本病は土壌,灌漑水など様々な環境中に存在し,宿主植物の周辺で急激に増殖し,一定密度を越えると発病に至る。本病の防除は,銅剤や抗生物質などによる化学的防除が基本となるが,生物農薬の普及も進みつつある。近年の研究成果を活用した,農業現場での迅速な病原細菌の検出技術および新規防除技術開発が期待されている。
著者
澤田 宏之
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-_63-64_, 2003-04-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
104
被引用文献数
1

マメ科植物の根粒菌(共生窒素固定菌)を含むことが確認されている菌種は現時点(2003年2月)で12属44種(新種に相当すると考えられる4つの分離菌も含めた)に及ぶ。これらは,16SrDNA系統樹において根粒菌として1か所にまとまることはなく,AlphaproteobacteriaからBetaproteobacteriaにかけて分布する以下の9つの単系統群(1〜9)に分散すること,根粒菌以外の菌種(以下の括弧内に示した)と混在しながらそれぞれの単系統群を構成していることが認められた。単系統群1:根粒菌としてはRhizobiumおよびAllorhizobium属細菌が含まれている(非根粒菌であるAgrobacteriumおよびBlastobacter属細菌も単系統群1の構成メンバーとして混在している),2:SinorhizobiumおよびEnsifey属細菌(分類上の所属が不明とされている非根粒菌も混在),3:Mesorhizobium属細菌(非根粒菌であるAminobacterおよびPseudaminobacter属細菌も混在),4:Bradyrhizobium属細菌およびBlastobacter denitrificans(非根粒菌であるAgromonas, Nitrobactey, AfipiaおよびRhodopseudomonas属細菌も混在),5:"Methylobacterium nodulans"(非根粒菌のMethylobacterium属細菌も混在),6:Azorhizobium属細菌(非根粒菌であるXanthobacterおよびAquabacter細菌も混在),7:"Devosia neptuniae"(所属不明とされる非根粒菌も混在),8:Burkholderia属細菌(非根粒菌のBurkholderia細菌も混在),9:Ralstonia taiwanensis(非根粒菌のRalstonia属細菌も混在)。このうち,単系統群5,8および9については,いずれも単系統性が高く,多相分類学的な特徴付けも十分になされていることから,「根粒菌と非根粒菌が混在している状態の単系統群が,全体として1つの属にまとめられている」という現行の分類体系は今後とも存続していくものと思われる。それ以外の6つの単系統群に関しては,A)人為分類に基づく現行の分類体系を今後もそのまま存続させていく;B)分子系統解析の結果を重視し,単系統群全体を1つの属としてまとめる;C)単系統群の中に認められるより小さな系統ごとに属として独立させる,という3つの選択肢のうちのBあるいはCを有力候補としながら,属レベルの分類体系(定義と範囲)に関する研究・議論がこれから活発に進められていくであろう。