著者
濱田 俊
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.13-19, 2014-03-14 (Released:2014-03-28)
参考文献数
41

チアミン(ビタミンB1)はエネルギー代謝に不可欠の補酵素であり,その欠乏は神経系に特有の障害を引き起こす。ヒトでは2種類のチアミン欠乏症,脚気とWernicke-Korsakoff症候群(WKS)がみられるが,脚気では主に末梢神経系が障害される一方,WKSでは中枢神経系が障害される。なぜ単一のビタミンが異なる2種類の病態を引き起こすのかよくわかっていない。WKSの神経組織障害は,多くの神経変性疾患同様に脳の特定領域にみられ,その発症機構に興味が持たれてきた。WKSに類似した病態を示す疾患モデル動物の研究により,WKSの発症には興奮性神経毒性や酸化ストレスなどの要因が関与することが明らかになりつつあるが,領域特異的な障害がどのようにして起こるのかほとんどわかっていない。著者らはWKSモデルマウスの脳における細胞死の分布を検討したところ,嗅球で大量の細胞死が生じていることを見いだした。嗅球における細胞死の分布から,シナプス入力の違いがチアミン欠乏に対する感受性に影響を与えていることが示唆された。