著者
柴田 梓沙 濱田 真一 島 佳奈子 智多 昌哉 大西 洋子 山嵜 正人 村田 雄二
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.218-224, 2021 (Released:2021-08-07)
参考文献数
31

妊娠女性の高齢化に伴い子宮筋腫合併妊娠や癒着胎盤は増加傾向にあり,両者の合併で方針に苦慮することがある.今回われわれは,子宮体部前壁下部筋腫に加え帝王切開瘢痕部を覆う前壁付着胎盤で癒着が疑われる症例を経験した.前壁付着の前置胎盤に準じ子宮底部横切開による帝王切開術を選択し,良好な経過を得たので報告する.症例は37歳,7妊3産,3回の初期中絶既往があり,第1子は妊娠32週前期破水経腟分娩,第2子は妊娠39週経腟分娩,第3・4子は妊娠33週双胎妊娠前期破水にて緊急帝王切開分娩であった.今回は自然妊娠であった.初期より子宮体部前壁下部に10 cm大の変性筋腫,子宮後壁に5 cm大の筋腫を認め,妊娠16週で当院に紹介された.胎盤は帝王切開瘢痕部を覆うように子宮前壁全体に付着していた.妊娠後期のMRI検査にて癒着胎盤の可能性も示唆されたため,周術期の出血のリスクや子宮を温存した場合の出血・感染のリスク,今後変性筋腫に対し子宮摘出が必要になる可能性を説明し,明確な挙児希望がなかったため本人・家族の同意を得て子宮底部横切開による帝王切開術および子宮摘出を行う方針とした.妊娠37週4日に硬膜外麻酔および腰椎麻酔下に尿管ステントカテーテル留置後,帝王切開術を実施した.児は2880g男児,Apgar score 8/9であった.胎盤を遺残させたまま筋層を仮縫合した後,腟上部切断術を行った.術中出血量は750 ml,手術時間は1時間24分であった.術後経過も良好で,術後7日目に母児ともに退院となった.胎盤病理では癒着胎盤を示す明らかな所見は認めなかった.子宮体部前壁下部筋腫合併妊娠では通常の子宮下節切開が困難で児の娩出に難渋することがある.本症例では子宮全摘を前提に子宮底部横切開による帝王切開術を行った.子宮底部横切開は,胎盤前壁付着の体部前壁下部筋腫症例にも応用ができると考えられる.〔産婦の進歩73(3):218-224,2021(令和3年8月)〕