著者
瀬上 夏樹
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.14-21, 2016-04-20 (Released:2016-05-23)
参考文献数
13

顎関節脱臼は,高齢認知症患者で激増し社会問題化しつつある。一方で本症に対する外科療法は枚挙に暇がなく,一定の適応基準も策定されていない。そこで以下の問題提起と外科療法の適応フローチャートを提唱するために,自験的,文献的検討を行った。まず,本邦では顎関節脱臼に対して外科療法を含む総括的診療の専門施設がほとんどなく,患者がある意味で難民化していることである。これを早急に解決すべく学会主導による病院間の連携システムを構築することを提案する。次に,これまで行われてきた手術法は,大別して運動平滑化法と運動抑制法であり,前者は関節結節削除術(Eminectomy)で,後者はLeClerc氏手術,捕縛拘束術である。当科で過去20年間に手術を施行した77例のうち,関節鏡視下結節形成術16例を除く61例で奏効率は87%であった。8例の再発例はすべてEminectomy単独施行例で,円板切除あるいは高位下顎頭切除を加えた群では再発はなかった。陳旧性,習慣性の両群でも差はなかった。また鎮静局麻下で施行可能な直達アプローチの成績も良好であった。周術期偶発症は術中17%,術後20%と高かった。以上の経験ならびに文献的考察より,顎関節脱臼患者に対する診断・外科療法チャートを提唱した。まず,基礎的全身疾患,認知症の有無の診査と専門医への対診を行う。またジストニアの合併や可能性の評価からEminectomyあるいはLeClerc氏手術の判断を行い,次にpneumatizationなど局所状況を評価して各手術の適応判断を行うことで良好な外科療法の適応が遂行できると考えられた。当然,高齢ハイリスク患者の手術であるから,致命的なものを含めた合併症への対策と説明は必須となる。