著者
西須 大徳 落合 駿介 鳩貝 翔 佐藤 仁 臼田 頌 村岡 渡 莇生田 整治 河奈 裕正 中川 種昭 和嶋 浩一
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-19, 2014-04-20 (Released:2014-05-23)
参考文献数
11

ジストニアは中枢性の持続的筋緊張を特徴とする運動異常疾患である。口顎部に発症した場合,顎のずれや痛みなどの症状を訴えて歯科を受診することがある。今回,薬剤性口顎ジストニアが咬筋・外側翼突筋に発症した症例を経験したので神経学的および薬理学的考察を交えて報告する。患者は20代女性,顎関節脱臼,および顎の痛みを主訴に当院救急に搬送された。CT撮影により右側顎関節脱臼と診断され,プロポフォール鎮静下に整復するも,再度脱臼したとのことで診療要請があった。診察時,顎位は閉口,右方偏位の状態で,救急科初診時とは明らかに所見が異なっていた。咀嚼筋の触診を行ったところ左側咬筋,外側翼突筋の過緊張がみられ,開口困難を生じていた。さらに,開眼失行,眼球上転が認められたことからジストニアを疑い,改めて全身疾患や薬剤の使用について問診した。その結果,統合失調症のため抗精神病薬を2剤内服していることが明らかとなったため,薬剤性口顎ジストニアと診断した。精神・神経科と相談し,治療として抗コリン薬である乳酸ビペリデン5 mgを筋注した。投与5分後には開眼失行,眼球上転,筋過緊張,顎偏位の改善を認め,開口も容易となった。口顎ジストニアは歯科に来院することがあり,その特徴的所見を十分把握したうえで迅速に診断し,他科と連携しながら対応する必要がある。
著者
西山 暁
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.162-165, 2017-12-20 (Released:2018-02-05)
参考文献数
3

われわれは,EBM(evidence based medicine)を患者に提供するために,良質なエビデンス(臨床研究の結果)を集めることが必要である。特にシステマティックレビュー(SR)やRCT(randomized controlled trial)が重要である。SRではすでに各研究のアウトカムについて評価されているが,RCTについては改めて効果推定値の確実性を評価する必要がある。“risk of bias”はその際に必要なポイントの一つである。
著者
松原 貴子
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.136-143, 2020-12-20 (Released:2021-06-20)
参考文献数
38

咀嚼筋痛は慢性筋痛の一つであり,筋・筋膜痛を主病態とし,末梢筋内における侵害受容機構,中枢神経系における疼痛感受機構,疼痛情動・認知の関与が示唆されている。咀嚼筋痛は他の慢性筋痛や慢性運動器疼痛と類似の病態を含むことが推察されることから,末梢局所だけでなく末梢・中枢感作への対応が求められる。現在,運動療法は患者教育とともに慢性疼痛治療のfirst-lineに位置付けられ,さまざまな中枢作動性の鎮痛物質による抗侵害受容機構や中枢性疼痛抑制システムを介して,高い鎮痛効果をもたらすことが期待される。運動処方としては,痛みを伴わない低強度で短時間の運動を高頻度で実施することから始める。運動療法は,患者自身の内因性鎮痛能力を高める根本治療としてのポテンシャルを有することから,歯科領域においても積極的に活用・導入できる治療法の一つになりうる。
著者
羽田 勝 布袋屋 啓子 石川 正俊 斎賀 明彦
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.92-107, 1997-06-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
18
被引用文献数
2

楽器演奏が顎関節症の原因となるか否かについては, 必ずしも明らかでない。そこで, 本研究では音楽学部 (366名) と一般学部 (191名) の全学生を対象に演奏楽器の種類と顎関節症の臨床症状の有無や各種既往歴などについて横断的なアンケート調査を行い, 楽器演奏と顎関節症との関連について検討した。アンケート結果の分析に際しては, 音楽学部学生を声楽や管楽器などの演奏に口を使用する口使用群 (116名) と, 鍵盤楽器, 弦楽器や打楽器などの口を使用しない不使用群 (250名) に分けて検討した。その結果, 以下のような知見が得られた。1. 顎関節症の主要3徴候の発生頻度には, 各被験群間で差がなく, 何れの群でも関節雑音の発生頻度が最大であった。2. 口使用群では, 2つ以上の症状を保有する複症者の割合が3年生までは低かったが, 4年生で著しく増加し, 他の被験群よりも有意に高い頻度であった。3. 口使用群の複症者の割合は, 声楽を専攻する学生で有意に高く, リード楽器では複症者や3徴候を全て保有する重症者の発生がなかった。4. Bruxismについては, 各被験群の複症者や重症者において自覚するものが比較的多く, 症状を持たない無症者では少なかった。以上の結果から, 楽器演奏全般が顎関節症と関連を持つ訳ではなく, 声楽において関連性の高いことが示唆された。また, 口使用群ではBruxismがあると顎関節症を誘発する可能性の高いことが示唆された。
著者
成田 紀之
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.85-92, 2014-08-20 (Released:2014-10-01)
参考文献数
18

口顎ジストニアは,顎・舌・顔面の持続的な異常筋活動を特徴として,咀嚼,嚥下,ならびに開口の障害,食いしばりを引き起こす。口顎ジストニアの病因には,遺伝子素因,中枢神経の損傷,末梢性外傷,服薬,代謝性疾患,あるいは中毒や神経変性疾患などが挙げられる。口顎ジストニア治療における第一選択肢はボツリヌス神経毒素を用いた治療であり,咬筋,側頭筋,あるいは外側翼突筋へのボツリヌス毒素の応用により,口顎ジストニアの約60%に咀嚼ならびに会話の改善がもたらされる。また,薬物治療では,抗コリン製剤,ベンゾジアゼピン製剤,抗痙攣薬などが応用されている。口顎ジストニアに認められる感覚トリックは,たとえば口唇あるいはオトガイをそっと触る,ガムを噛む,話をする,楊枝を咬むなどして,ジストニア症状が一時的に軽快することであるが,このとき,ボツリヌス毒素治療と同様にして,感覚トリックによっても,感覚運動皮質の活動性に変調が生じえる。口顎ジストニアは,うつ,不安,強迫性障害,ならびに統合失調症といった精神障害と共存しており,これら口顎ジストニアの精神心理的側面は臨床診断を難しくする。最近のわれわれのデータは,口顎ジストニア患者におけるボツリヌス毒素治療が,ジストニックな異常筋活動の軽減ばかりか痛みや精神病理の緩和に有効であることを示唆している。本論文は,包括的な理解を目的として,口顎ジストニアの治療について概説するものである。
著者
矢吹 省司
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.243-248, 2018-12-20 (Released:2019-02-04)
参考文献数
17

腰痛と肩こりは男女ともに有する頻度が高く,国民を困らせている2大症状である。腰痛と肩こりの病態の共通点は,頻度の多い症状である,椎間板変性だけが症状の原因ではない,ストレスなどの心理社会的要因が深く関わっている,そして,症状は局所であっても脳も含めた全身疾患として捉える必要がある,という点である。腰痛と肩こりの治療の共通点は,保存療法が基本である,運動の種類とは関係なく運動療法を行うこと,それ自体が有効な治療である,そして,全身運動は最も勧められる運動療法である,という点である。運動により痛みが軽減する(exercise-induced hypoalgesia:EIH)メカニズムには内因性疼痛調節系が関与していることが報告されている。現時点で最も有力なEIHメカニズムは,カンナビノイドが関連しているというものである。カンナビノイドはマリファナ類似作用を示し,EIHを引き起こす。慢性痛にはさまざまな要因が関与しているため,病態の解析や治療には多職種が関わる集学的診療が推奨される。われわれが行っている集学的治療の中心となるのは,運動療法と心理療法である。私が考える慢性痛に対する認知行動療法のポイントは,痛み0だけの生活を目指さない,元々の痛みの原因を追究するより“今”の症状をどうするか,そして「痛みがあってもなんとかなる」という自信が大事,の3点である。
著者
矢谷 博文
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.36-43, 2018-04-20 (Released:2018-05-14)
参考文献数
53

顎関節症のリスク因子には,外傷,解剖学的因子,病態生理学的因子,心理社会学的因子など多くのものがあることが知られており,そのうち単一の因子,あるいは複数の因子の複合によって発症するものと考えられる。すなわち,顎関節症の原因は患者によって異なっており,生物心理社会学的モデル(biopsychosocial model)の枠組みのなかで,病歴聴取を含む臨床的診察や検査結果を基に,目の前の患者ごとにそれらの複数のリスク因子のなかから推定されるべきである。咬合因子の顎関節症発症における役割について論じた質の高い文献は依然少ないものの,それらの文献は,咬合因子は顎関節症発症のリスク因子の一つにすぎず,咬合が発症の最重要因子となっている症例は決して多くはないというエビデンスを一致して示している。このことは,不可逆的治療である咬合治療は顎関節症の治療法の第一選択ではなく,保存療法,可逆療法を優先すべきであるというメッセージをわれわれに伝えている。
著者
牧山 康秀
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.177-186, 2018-08-20 (Released:2018-10-15)
参考文献数
11

習慣性の頭痛を主訴とする患者では,緊張型頭痛と片頭痛が多い。緊張型頭痛は一次性頭痛のうち最多の疾患であるが,頻発すると受診し,痛みは中等症(つらいが日常動作はできる)以下が多く,周辺筋群に圧痛をもつ例が多い。片頭痛では,中等度以上の頭痛に加え,多臓器にわたる過敏症状を伴い日常生活の中断を余儀なくされる。片頭痛では鎮痛薬ではなく片頭痛発作の頓挫薬であるトリプタン製剤を用いて生活の中断を最小化させることができる。顎関節症に起因する頭痛は,耳介前方,咬筋,側頭部に多くみられ,頭痛を眼窩外耳孔線より頭頂側の痛みと定義する以上,多くの例で一物の二面を見ているにすぎない。また近年,口腔顔面と頭部の慢性疼痛性疾患における痛覚系の感作が明らかになり,顎関節症と一次性頭痛の共存を強調する報告が散見される。今後の病態解明,治療アプローチの進展が期待される。頭痛を訴える患者に遭遇する診療科では臨床的緊急度の高い頭痛患者を確実に捕捉する重要性が繰り返し指摘されている。診断治療の緊急性が高い頭痛は,突然発症のもの,緩徐でも確実に増悪するもの,発熱などの全身症状を伴うものなどがたびたび強調されている。これらに加えて,歯科領域に原因をもち顔面頭部の知覚障害を伴う頭痛の重要性も指摘した。
著者
杉崎 正志
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.146-155, 2017-12-20 (Released:2018-02-05)
参考文献数
28

顎関節脱臼の徒手整復法の記録は紀元前のEdwin Smith Papyrusに始まり,その後Hippocratesの記録につながる。本稿ではHippocrates法と呼ばれる徒手整復法に関する疑問点を抽出し,それらの疑問を解決した。またインドのSushrutaと中国前漢時代の出土記録を概説した。
著者
島田 淳
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.3-8, 2021-04-20 (Released:2021-10-20)
参考文献数
23

顎関節(雑)音は,顎関節症の主要症候の一つである。しかし症状が,顎関節(雑)音のみの場合には,日常生活に支障がでることはほとんどなく,自然経過は良好な場合が多いとされ,治療による顎関節(雑)音の改善,消失は困難であり,再発することも少なくない。痛みや開口障害を伴わない顎関節(雑)音を生ずる病態は,主に顎関節円板障害と変形性顎関節症であり,そのほとんどに関節円板転位が関与している。しかし顎関節(雑)音の病態はさまざまであるため,診察・検査により病態を診断する必要がある。「痛みと開口障害を伴わない顎関節(雑)音」の多くは自然経過が良好である。治療を行ってもその効果は不確実で,副作用として咬合が変化する可能性があり,咬合治療や矯正が必要となる場合がある。しかし症状が悪化しないためには,病態に対する理解とセルフケアが必要である。歯科医師は診察・検査で得られた患者の病態を基に経過観察を含めた治療に対する合理的な選択肢とそれらの利益やリスクに関するエビデンス,さらには患者の価値観を共有し,患者にとって最善の治療方針を患者と一緒に決定することを目的とした説明を行うことが求められる。
著者
堀川 博誠 中室 卓也
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.3-9, 2017-04-20 (Released:2017-05-19)
参考文献数
21

パーキンソン病では他の神経疾患に比べ顎関節脱臼が多いことが示唆された。症例検討から,進行例で頸部後屈を伴った場合にみられ,運動学的に頸部後屈は顎関節脱臼を助長すると考えられた。パーキンソン病以外の神経疾患においても,頸部の姿勢や筋緊張異常を考慮することにより,顎関節脱臼の発生に関与する神経学的病態が明らかになる。
著者
和気 裕之 小見山 道
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.183-190, 2014-12-20 (Released:2015-02-20)
参考文献数
49

顎関節症診療における歯科医師と精神科医の連携について述べた。顎関節症診療では,有病率の高い精神疾患に遭遇する機会が少なくない。そして,心身症の概念は身体疾患と精神疾患の境界領域の病態を理解するうえで重要である。歯科心身症には定義がなく,臨床では狭義と広義の概念で用いられている。狭義の歯科心身症は,日本心身医学会(1991)の定義に該当する歯科領域の病態を指す。一方,広義の歯科心身症は,「臨床的に説明困難な症状」や,「心身両面からの評価と対応を要する患者」などに対して用いられているが,リエゾン診療では,その70%以上が身体表現性障害に該当する。顎関節症は多因子性の疾患であるが,そのなかの心理社会的因子には不安・抑うつなどの心理状態,性格傾向,ストレス,精神疾患などがあり,これらは診断と治療を行ううえで重要である。歯科医師は顎関節症診療で,傾聴,受容,共感,支持,保証を基本姿勢としてBio-psychosocialな評価を行い,精神科との連携を要する症例は,心身医学的な医療面接から検討する。また,特に診察と検査から他覚所見がみつからない症例,あるいは自覚症状と他覚所見に乖離のある症例では注意が必要であり,単独で診療が可能か連携して診療すべきかを判断することが重要である。
著者
小松 賢一 高地 義孝 高地 智子 丸屋 祥子 松尾 和香 木村 博人 鈴木 貢
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.89-100, 1993-05-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
34
被引用文献数
4

1980年1月から1989年12月までの10年間に弘前大学医学部附属病院歯科口腔外科外来を受診した650名の顎関節症患者について臨床統計学的な観察を行い, 次のような結論を得た。本症患者は年々増加傾向にあり, 新患総数に占める割合は10年間で平均7.4%であった。性別では男性173人, 女性477人と女性に有意に多かった。年齢別では20歳台が27.2%と最も多く, 次いで10歳台16.6%, 30歳台16.5%と続き, さらに50歳台, 40歳台, 60歳台の順で二峰性を示した。罹患側は片側が85.8%, 両側が14.2%であった。初発症状や主訴は単独症状のことが多く, その症状は疼痛が最も多かった。発症から初診までの期間は57.2%が6カ月未満であった。当科受診前に他科を受診している患者は51.4%であった。初診時症状は複数の症例が多く, 顎関節部痛が70%, 顎関節雑音46.2%, 開口障害42.5%などであった。治療法は薬物療法, スプリント療法, 咬合調整, 抜歯などの歯科的治療法であった。薬物療法とスプリント療法の併用が60%を占めていた。治療成績では, 治癒または軽快が45.1%に見られた他, 治療中止例が53.6%に見られた。
著者
吉村 仁志 大場 誠悟 松田 慎平 小林 淳一 石丸 京子 佐野 和生
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.186-191, 2012 (Released:2013-01-21)
参考文献数
14

線維筋痛症は,全身の慢性疼痛を主徴とする原因不明の疾患で,疲労や筋肉痛などさまざまな症状のため,生活の質(QOL)が著明に損なわれる。口腔顔面領域では,顎関節症,口腔乾燥症,味覚障害などを生じるとされる。今回われわれは開口障害などの症状を呈した患者で,線維筋痛症の診断にいたり,薬物療法にて症状改善を得た1例を経験したので報告する。患者は62歳女性。家族関係に強いストレスを感じていたが,5年前に夫に殴打され左顔面のしびれが出現。3年前より開口障害,左眼瞼・口唇の運動障害を自覚。その後,口腔乾燥や味覚障害も出現したため当科受診となった。全身所見として倦怠感と食欲不振を認めた。局所所見として両側の側頭筋・顎二腹筋・胸鎖乳突筋・僧帽筋・内側翼突筋に圧痛を認め,また開口量31 mmと開口障害を認めた。全身疾患が疑われたため,感染症・膠原病内科を対診した。長期の慢性疼痛と全身18か所中17か所での圧痛から,米国リウマチ学会の診断基準に基づき,線維筋痛症と診断された。全身の慢性疼痛はPregabalin(リリカ®)の内服により半減した。咀嚼筋や頸部の筋圧痛部位も減少し,開口量は42 mmまで増加した。治療開始後1年経過し症状は安定している。本疾患は日常診療でよく遭遇する口腔症状を合併するが,その認知度は低い。本疾患を念頭におき,必要であればすみやかに専門医との連携を取り,症状の改善を目指すことが重要である。
著者
藤田 温志 永易 裕樹
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.255-260, 2018-12-20 (Released:2019-02-04)
参考文献数
9

今回,脳神経外科手術後に生じる開口障害の臨床的特性について検討した。札幌禎心会病院脳神経外科において手術を施行した114例を対象として,手術アプローチ,術前の開口量,術直後の開口量の変化,開口訓練後の開口量の変化,開口訓練期間について解析した。術後の開口量の変化は術前と術後の比で表し,開口訓練後の開口量の変化は術前と開口訓練後の比で表した。待機手術を受けた114例について側頭部に切開を加える手術群(以下,側頭切開群:前頭側頭開頭法63例,側頭開頭法2例,前頭側頭開頭法+頸部切開3例,計68例),側頭部に切開を加えない手術群(以下,非側頭切開群:前頭開頭法25例,外側後頭下開頭法17例,頸部切開4例,計46例)の2群に分けて,術直後からの開口量の変化,開口訓練後の開口量の変化,開口訓練期間について比較検討を行った。その結果,術直後の開口量の変化は,側頭切開群が非側頭切開群に比較して有意に減少していた。開口訓練後の開口量の変化は,側頭切開群が非側頭切開群に比較して有意に低下していた。開口訓練期間は,側頭切開群が非側頭切開群に比較して有意に長かった。検討の結果,脳神経外科手術によって開口障害が生じる可能性があり,なかでも側頭部に切開を加える手術アプローチにおいて開口障害が増悪した。
著者
田部 眞治 藤田 宏人 松田 秀司 佐々木 秀和 竹中 暁恵 吉村 安郎
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.33-36, 2003-04-20 (Released:2010-06-28)
参考文献数
5
被引用文献数
1

破傷風はClostridium tetaniの産生するtetanospasminによって起こる重症感染症である。本疾患は開口障害を初期症状とすることが多く, 歯科・口腔外科を受診する症例も散見される。われわれは, 開口障害を主訴に当科を受診した破傷風5例について検討した。性別は男性1例, 女性4例で, 年齢は42~84歳, 平均69.6歳であった。すべての症例が当科受診以前に他の医療機関を受診していた。しかし破傷風と診断された症例はなく, 5例中3例は顎関節症と診断されていた。破傷風の診断には臨床症状が最も重要である。しかし近年, 破傷風は発生件数が激減し, まれな疾患となった。このため破傷風に遭遇する機会は減少しつつあり, これが診断を困難にする原因の一つであると考えられた。鑑別を要する疾患としては, 顎顔面領域の炎症性疾患などさまざまなものがあげられる。顎関節症も鑑別を要する疾患の一つである。しかし破傷風の開口障害は顎関節症のそれに比べ非常に強烈で, 術者が開口を試みるも, 著しく硬く困難であり, 開口域はほとんど改善をみないものである。それゆえ, 注意深い観察を行えば, 鑑別はそれほど困難なものではないように思われた。破傷風は診断が遅れると死を招く重篤な疾患である, したがって, 開口障害を訴える患者に対しては, 常に本疾患の可能性を念頭に置き診断にあたる必要があると考えられた。
著者
木野 孔司
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.9-13, 2021-04-20 (Released:2021-10-20)
参考文献数
2

関節円板後部組織の組織構造の認識に関して,多くの論文では,1950年代に示された「二層部」の存在がそのまま信じられていると考えられる内容が現在でも見受けられる。この「二層部」の存在に疑問をもったわれわれは,独自に組織切片を作成し関節円板および関節円板後部組織の組織構成を観察し,「二層部」が存在しないことを明らかにした。すなわち,関節円板を構成する密な膠原線維はすべてが下顎頭の内外側極から後面への隅角部に連結し,「二層部の上層」として提案された下顎窩後壁に連結する線維束はないこと,関節円板後部組織は細い線維で構成された疎な構造であり,その内部に多くの静脈叢を包含していることなどである。この構造を認識することで,下顎頭の前後移動量や関節円板前方転位発現の多さ,MRI撮像による関節円板位置判定が可能になっている。