著者
熊谷 友里
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.75-98, 2020

<p>近代カトリックの宗教としての性格を理解しようとするとき、教会の諸制度を含めた宗教実践の実定的側面が宗教的真理としていかに位置づけられてきたかは重要な論点である。本稿では、一九世紀フランスにおけるウルトラモンタニスムとガリカニスムの対立図式上に生じた「典礼論争」を背景に、ベネディクト会ソレーム修道院の院長プロスペル・ゲランジェがオルレアン司教に宛てた三通の書簡を考察対象とし、そこにおいて実定的性格をもつ典礼がいかに規定され意義づけられているか、さらにはそれらの議論のなかでカトリックの宗教としての性格がいかに捉え直されているかを検討する。内的事柄のみを宗教的本質とみる司教に対し、ゲランジェは典礼の意味と意義を多様に論じつつ、地上の教会に関わる実定的な事柄を、宗教的真理にとって不可欠な要素として本質的領域に再設定し、カトリシスムの真理構造とその宗教的性格をも再検討させている。</p>