著者
青木 紀美子 小笠原 晶子 熊谷 百合子 渡辺 誓司
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.32-72, 2023-10-01 (Released:2023-10-20)

社会的に多様性、公平性、包摂性の促進が重視される中、メディアも社会の多様性を反映しているかを問われている。放送文化研究所では2022年度、テレビ番組の表象の多様性について2回目の調査を行った。 6月の1週間、番組全般の出演者のジェンダーバランスをメタデータにもとづいて分析し、6月と11月、ウィークデー(月~金)夜の全国向けのニュース報道番組で発言した登場人物について、ジェンダーに加え「障害の有無」、「人種的多様性」、「取材地の分布」などについても、コーディングによる分析を行った。 ジェンダーバランスの分析結果は、前年度とほぼ変わらず、女性と男性の割合が、番組全般では4対6、夜のニュース報道番組では3対7だった。総人口では女性が過半数を占め、特に高齢層で女性が男性より多いという社会の現実に対し、テレビの世界は「若い女性と中高年の男性」に偏った表象であることが前年度に続き、確認された。このうちニュースでは、男性が政治や経済などの分野で権威や肩書がある立場で登場することが多いのに対し、女性は暮らしや福祉などの分野で地位も肩書も名もない立場で登場する割合が高かった。新たに加えた調査項目のうち「人種的多様性」では、「日本人」の次に「ヨーロッパ系」が多く、取材地が日本国内の場合も、在留外国人の大半を占める「アジア系」と「ヨーロッパ系」が、登場人物に占める割合で並ぶという偏りがあった。「障害の有無」の分析では、障害「あり」が全体の0.3%で、「あるかもしれない」0.9%とあわせても約1.2%で、国内の障害者の割合のおよそ9.2%の8分の1程度にとどまった。登場人物が取材を受けた「取材地の分布」は、都道府県別の人口分布に比べて、東京への一極集中がはるかに大きかった。限られた日数のサンプル調査であり、テレビ放送から得られる情報では把握できない多様性もあるが、視聴者から見えるテレビの表象の偏りを示唆する結果となった。
著者
熊谷 百合子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.34-61, 2023-02-01 (Released:2023-03-20)

ソーシャルメディアの台頭により情報発信・獲得の手段が多様化し、若い世代を中心にテレビ離れ、ニュース離れは深刻さを増しているが、背景には、必要な情報を必要とする人に届ける役割を果たせていないマスメディア自身の課題もあるのではないか。こうした問題意識から、コロナ禍に運用が開始された、仕事と育児を両立する親を対象とする支援制度の問題を伝えた報道が、どこまで当事者に伝わり、制度の利用につながったのかを検証するとともに、主に未就学児を育てる働く親のメディア接触の実態を可視化するインターネット調査を実施した。調査の結果からは、デイリーニュースを確認する手段としてテレビのニーズが確認された一方で、家事育児の多忙や、子にチャンネル権が優先されることなどを理由に、親自身がテレビニュースを見る機会が減少するケースが多いことが認められた。また、支援制度を知った経路として、テレビは一定程度貢献をしているものの、制度を利用する行動変容を促すまでの役割は果たせていない。必要な情報を必要とする人に届けるためには、報道手法そのものを見直す必要があると考えられる。