著者
青木 紀美子 大竹 晶子 小笠原 晶子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.2-28, 2022-05-01 (Released:2022-06-20)

多様性とインクルージョンの推進は、公共サービスとしてのメディアが、情報が氾濫する時代にあって信頼を得て存続するために不可欠な、最も重要な課題のひとつである。 多様性には、ジェンダー、性的指向、人種、障害の有無、居住地域などいろいろな面がある。テレビのオンスクリーン・放送内容の多様性を分析する私たちの最初の調査では、最も基本的な女性・男性のバランスがテレビの登場人物においてどう表れているかに注目した。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ報告で2021年、日本は世界156か国中120位という低さにとどまるなど、男女平等の推進が遅れていることを考慮した。 調査では、まずデータにより現状を可視化することをめざした。2021年6月に行ったトライアル調査の結果もふまえ、テレビ番組全体の登場人物については番組メタデータをもとに年代別、職業分野別、番組ジャンル別に女性、男性の数を比較し、ニュース番組についてはコーディング分析により、発言した、もしくは発言が引用された人物について、名前の表記やニュースの中での役割、取り上げた話題を含めたより詳しい比較・分析を行った。 調査の結果、女性の登場はテレビ番組全般で40%以下、ニュース番組では30%にとどかず、男性に比べると半分以下にとどまった。ニュース番組では、キャスターなどレギュラー出演者を除いたニュース項目の登場人物では偏りがさらに大きく、男性が女性のほぼ3倍となり、このうち名前の表記があった人では男性が女性のおよそ4倍に上った。 ニュースの話題別にみると、政治、科学・医療、スポーツニュースでは男性が女性の3倍以上、職業・肩書別にみても偏りは大きく、登場した延べ人数が最も多かった政治家では男性が女性の5倍、最も差が大きかった医師では男性60人に対して女性が1人だった。 年代・年層別の差も大きく、テレビ全般では女性は20代が最も多く、30代以降は年代が上がるほど減り、ニュース番組でも19-39歳の年層が最も多かった。これに対して男性はテレビ全般では30~50代が最も多く、ニュース番組でも40~64歳という年層が過半数を占め、テレビに出ているのは「若い女性と中高年の男性」というこれまでにも指摘されてきた構図が浮き彫りになった。 またテレビの女性、男性の取り上げ方を視聴者がどう見ているかを探ったアンケート調査では10代~30代、その中でも男性より女性に、違和感などを抱いたことがあると回答した人が多かった。違和感などを抱いた番組ジャンルは登場人物の男女比に偏りが大きい番組ジャンルと重なった。
著者
青木 紀美子 小笠原 晶子 熊谷 百合子 渡辺 誓司
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.32-72, 2023-10-01 (Released:2023-10-20)

社会的に多様性、公平性、包摂性の促進が重視される中、メディアも社会の多様性を反映しているかを問われている。放送文化研究所では2022年度、テレビ番組の表象の多様性について2回目の調査を行った。 6月の1週間、番組全般の出演者のジェンダーバランスをメタデータにもとづいて分析し、6月と11月、ウィークデー(月~金)夜の全国向けのニュース報道番組で発言した登場人物について、ジェンダーに加え「障害の有無」、「人種的多様性」、「取材地の分布」などについても、コーディングによる分析を行った。 ジェンダーバランスの分析結果は、前年度とほぼ変わらず、女性と男性の割合が、番組全般では4対6、夜のニュース報道番組では3対7だった。総人口では女性が過半数を占め、特に高齢層で女性が男性より多いという社会の現実に対し、テレビの世界は「若い女性と中高年の男性」に偏った表象であることが前年度に続き、確認された。このうちニュースでは、男性が政治や経済などの分野で権威や肩書がある立場で登場することが多いのに対し、女性は暮らしや福祉などの分野で地位も肩書も名もない立場で登場する割合が高かった。新たに加えた調査項目のうち「人種的多様性」では、「日本人」の次に「ヨーロッパ系」が多く、取材地が日本国内の場合も、在留外国人の大半を占める「アジア系」と「ヨーロッパ系」が、登場人物に占める割合で並ぶという偏りがあった。「障害の有無」の分析では、障害「あり」が全体の0.3%で、「あるかもしれない」0.9%とあわせても約1.2%で、国内の障害者の割合のおよそ9.2%の8分の1程度にとどまった。登場人物が取材を受けた「取材地の分布」は、都道府県別の人口分布に比べて、東京への一極集中がはるかに大きかった。限られた日数のサンプル調査であり、テレビ放送から得られる情報では把握できない多様性もあるが、視聴者から見えるテレビの表象の偏りを示唆する結果となった。
著者
税所 玲子 広塚 洋子 小笠原 晶子 塩﨑 隆敏 杉内 有介 吉村 寿郎 佐々木 英基 青木 紀美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.22-39, 2021 (Released:2021-04-20)

2021年、世界各国で新型コロナウイルスの予防接種が始まったが、感染力が強い変異ウイルスの出現もあり、感染の拡大は止まっていない。WHOによると感染者の数は1月末までに1億人に近づき、死者は200万人を超えた。世界のメディアは新型コロナやその感染予防策についてどのような発信をしたのか。報道を継続するために組織としてどのような対応をとったのか。浮かび上がった課題は何か。 2月号に続き、コロナ禍に対する海外のメディアの対応を報告する。ヨーロッパ、中東、アフリカの国ごとの動きに加え、メディアが直面した問題をテーマ別にまとめる。