著者
熊谷 誠慈
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.263-290, 2014

二〇一二年に国際幸福デーが国連により採択されるなど、近年、国家および個人の幸福について意識が高まりつつある。そうした中で、幸福を国政の主軸に据えるブータン王国の国民総幸福(GNH)政策は広く各国から注目されている。学術分野においても、経済学や開発学的側面からすでにこの政策概念に関する研究が進められてきた。しかし、ブータンにおける「国民」や「幸福」という概念が正確には一体何を意味するのかといった点については、不問に付したまま議論が進められていることが多い。そこで本稿では、ブータンの伝統宗教である仏教の思想や倫理観に焦点を当て、ブータンにおいて形成されてきた国民観や幸福観を再考し、ブータン人たちの伝統的価値観に立脚した上で「国民総幸福」という概念を捉え直すとともに、その応用可能性についても検証を行う。