著者
片岡 志保
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.19-31, 2013

本稿は,高度経済成長期を対象期間とし,養護施設中卒児の進路に対する実践者と政策主体の認識の変遷過程を明らかにすることを目的とした.当時の実践記録や厚生白書等を分析すると,双方の認識は就職から進学に変化していた.実践者は当初,結果的に労働力として子どもを送り出すことを受け止めていたが学校教育からの排除や不安定な収入で若年労働者として働く子どもの現実に触れ,就職に対する認識を変化させていった.政策主体が中卒児の進路を就職とした背景に,労働力需給との関係があった.認識変化は特別育成費の導入ととらえられ,政策主体は全中卒児との進学率の差を是正すべきと認識していた.進学率の差は以前から存在していたことを考慮すれば,これまでになかった実践者のソーシャルアクションによって社会の関心が寄せられ制度の導入に影響したことが示唆された.特別育成費は内容に限界をもちつつも中卒児の進路に確実な変化をもたらした.