著者
廣野 俊輔
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.43-55, 2015-02-28 (Released:2018-07-20)

本稿の目的は,川崎バス闘争の背景を先行研究よりも幅広い社会的文脈から検討したうえで,障害者が直面した困難はいかなる価値の対立によって生起したかを明らかにすることである.川崎バス闘争とは,1976〜1978年,川崎市と周辺で生起した車いすのままバスに乗ろうとする障害者とそれを制限しようとする関係者の闘争である.本稿では闘争をもたらした価値の相克を,障害者の立場から検討する.検討の結果は以下のとおりである.第1に,当時の地域社会においては,障害者の世話=在宅か施設で行うものという認識が強く,そもそも障害者の主張が受け止められるまでに至らなかった.第2に,障害者による「あらゆる人が障害者を介護すべき」という主張は特に理解されず,単なる「わがまま」として対立が鋭くなった.第3に,労働環境の悪化を懸念する労働者やそもそも市民や労働者に不信感をもっていた障害者の立場が,闘争をより複雑で困難なものにした.
著者
岩田 千亜紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.58-72, 2021-11-30 (Released:2022-02-02)
参考文献数
27

本研究では,2020年に一般社団法人Springによって実施された「性被害の実態調査アンケート」の質的調査の2次分析を行った.その結果,性暴力被害者のニーズを踏まえた相談支援についての課題として,“相談機関のアクセシビリティ(利用しやすさ)”,“相談機関のアクセプタビリティ(受け入れやすさ)”,“相談機関の相談の質”の三つがあることがわかった.そのため,性暴力被害者が相談支援に繋がるためには,物理的アクセシビリティを高めるだけでなく,相談支援の質の向上や,中長期的な相談支援の提供など,包括的かつ総合的な支援サービスへの改善が求められる.性暴力被害者への相談支援におけるソーシャルワーク支援は,著しく乏しい現状にある.今後,ワンストップ支援センターや地域のソーシャルワーカーが,性暴力被害者の生活再建・回復を目指した中長期的な支援の中核になることが必要である.
著者
石原 アンナユリアーネ
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.63-75, 2019-11-30 (Released:2020-06-16)
参考文献数
39

日本において性暴力が「女性に対する暴力」と規定されたことで,なぜ性的攻撃的な女性と男性被害者が周辺化されるのかを理論的に究明することを本研究の目的とする.米加女子大学生を対象とした調査から,性的攻撃的な女性の存在と加害の実態を示した.またButlerのジェンダー理論を援用し,日本では女性被害者・男性加害者は異性愛規範に基づいてレイプの「規範」として構築されるという結果を示した.セックスの象徴法則の採用により,女性の加害は周辺化され「不正な加害者」となる.その様な性暴力への見方によって性別に基づく被害のヒエラルキーが作られ,女性加害者・男性被害者は研究対象にすらならない.そのため社会福祉学において性暴力の社会問題としての構築と支援制度への影響を検討する必要がある.「女性はレイプしない」という偏見は男性被害者の認識と支援を妨げる神話の一つにすぎず,その現象の理解を深める実証研究が必須である.
著者
伊藤 嘉余子 石垣 文
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.3-13, 2013-05-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

本研究では,小規模ケアユニットの独立性と職員間の連携や情報共有に対する満足度との関連性に焦点をあてて,児童養護施設小規模ケア下における職員間の連携の実態と課題について明らかにすることを目的として,児童養護施設職員を対象に質問紙調査を実施した.分析の結果,以下の3つの必要性が示唆された.(1)職員間の情報共有内容や意識の標準化を図るための記録様式の統一,(2)職員間の良好な人間関係構築,(3)スーパービジョンを含めたユニットケア担当職員への具体的な支援体制の確立.
著者
天畠 大輔
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.28-41, 2020-02-29 (Released:2020-05-23)
参考文献数
22

本研究の目的は,兵庫青い芝の会会長澤田隆司の介護思想とその実践について検討し,その問題点を浮かび上がらせることで,いまだ解明されていない「発話困難な重度身体障がい者」の介護思想の枠組みを模索することである.はじめに,青い芝の会の活動の中心を担った横塚晃一の主張に着目し,青い芝の会の思想である「健全者文明の否定」や「健全者手足論」について考察する.次に,横塚の思想に影響を受けた澤田がどのような実践を行っていたのかを整理する.次に,特に重度の発話障がいを抱えていた澤田の,青い芝の会の介護思想を実践することへの限界と課題に言及する.また,介護者が兵庫青い芝の会会長という属性による解釈を行ったことから,両者の間に生じた問題を明らかにする.最後に,本研究の結論として,澤田独自の介護思想とその実践から,「発話困難な重度身体障がい者」における介護思想を考察する.
著者
川元 克秀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.62-82, 1999-01-20 (Released:2018-07-20)

The purpose of this study is to examine a cross-validity and a reliability of a measurement of "SEKENTEI" for factor analysis of social welfare services. "SEKENTEI" is the level of a person's self-consciousness of others observing one's behavior and endeavoring to meet the perceived norms of behavior. Data used in this study were obtained from 3 types of the populations, the first one was elderly people who participate in educational services, the second one was person attending a class of home-helper, the third one was primary family caregiver. The "SEKENTEI" Index was examined on an immutability of the factor structure and a test-retest reliability. A factor analysis, coefficient Al fa and correlation coefficient was used in this analysis. The results were as follows : 1) On this study, there were 3 cases of the factor structure in the "SEKENTEI" Index. That was 3 factor structure, 4 factor structure and 5 factor structure (eigin value>1.0). 2) The "SEKENTEI" Index of This study was similar to previous studies on the character concerning factor loading of the 12 items. 3) The coefficient Al fa of the "SEKENTEI" Index were approving level (.71〜.77) on this study. 4) On test-retest reliability, the reliability coefficient of the "SEKENTEI" Index were not high level one. By these result, it was suggested that the "SEKENTEI" Index did not have a high level cross-validity and a high level a reliability. Based on these results, it appears that the "SEKENTEI" Index will be a sound measurement of "SEKENTEI", if it is partly revised.
著者
中村 剛
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-12, 2018-05-31 (Released:2018-06-28)
参考文献数
38
被引用文献数
9

尊厳と人権は社会福祉の原理であり理念である.しかし,その意味は不明確である.そのため,本稿では尊厳と人権の意味を明らかにした.これらの言葉は,西欧で生まれた概念であり考え方である.よって,まず,それぞれの言葉の概念史や語源を確認した.その上で,尊厳については,聖の次元に思考を拓くことで,その意味の解明を試みた.一方,人権については,「human」の側面と「right」の側面とに分けることで,その意味の解明を試みた.考察の結果として明らかにした意味は次のとおりである.尊厳とは,“聖なるもの”の経験の中で実感する「かけがえのなさ」,「他者の存在の大切さ」,「他者への責任=倫理」といった,世俗の価値とは質的に違う価値のことである.そして,人権とは,「人間らしく生き暮らしたい」という叫び・要求が,正義そして道徳や自然法のような規範を通して,一定の正当性をもった叫び・要求として認知されたものである.
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009-02-28 (Released:2018-07-20)

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
三輪 清子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.1-13, 2016-02-29 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

日本では,社会的養護を受ける子どもたちはその約9割が施設に入所し,約1割が家庭養護である里親に委託される,なぜ日本では里親委託が伸展しないのか.本稿では,この問題関心のもとに,戦後から現在までの里親制度に関する先行研究を概観し,その妥当性を検討する.里親委託の伸展を阻害するものと指摘される要因に関する仮説は,ほぼすべてが「里親登録者の不足」,もしくは「里親の養育対象となる子どもの限定化・少数化」を経由して里親委託が停滞することを指摘している.前者は,実証的なデータによって支持されるとは言いがたいが,後者に含まれるいくつかの下位仮説はデータから支持されていた.結局,児童福祉諸機関が里親に十分な支援や対応をとることが難しかったことが里親委託の停滞を生み出した最大の要因であると考えられた.
著者
鍾 家新
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.74-90, 1995-12-20 (Released:2018-07-20)

In order to fully understand the welfare state in Japan today, research into Japanese aggression between 1931 to 1945 is needed. The concept of "welfare state" as a term was not apparent during the period from 1931 to 1945 in Japan. The framework regarding the welfare state, however, has been built up since that time. The foundation of "the Ministry of Health and Welfare" during the time of aggression and world war II occupy an important position in the process of the development of the Japanese welfare state. Until recently studies on the welfare state concentrated only on the policies of "the Ministry of Health and Welfare", the main constituent has not been studied in earnest. The main object of this paper is to study the role the war played in the process of the development of the Japanese welfare state. The following questions will be discussed : 1. The social background of the foundation of "the Ministry of Health and Welfare". 2. The role of "the Department of the Army", the late prime minister Konoei, "the Department of the Interior" during the foundation of "the Ministry of Health and Welfare". 3. The principal policies for carrying out the war that were established by "the Ministry of Health and Welfare".
著者
廣野 俊輔
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.104-116, 2009-02-28 (Released:2018-07-20)

本研究は,先行する研究において言及されることが少ない「日本脳性マヒ者協会青い芝の会」の1960年代後半の活動の解明を目的としている.とりわけ,1960年代末の会の内部における対立と混乱について詳しく検討し,いかにして1970年代の活動につながっていくかを明らかにしようとした.本研究の成果として,第1に,1960年代末に起こった対立は,社会的な支持を失わない程度には要求運動を支持する旧来からの会員を中心としたグループと慈善運動に否定的で,社会的な支持とは関係なく,不当(にみえる制度)を変革していくべきだ,とするグループの対立であることが明らかとなった.また,1960年代における,変わるべきは自分ではなく社会であるという認識がみられる点,施設や親元を離れた暮らしを志向している点が1970年代の活動へとつながっていることを明らかにした.
著者
夏堀 摂
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.42-54, 2007-05-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,障害児者とその親がおかれた状況の一端を明らかにするために,戦後の「親による障害児者殺し」事件の推移に注目し,過去の新聞報道を基に分析を行った.その結果,(1)未成年の障害児が被害に遭う事件が1980年代以降減少しているのに対し,成年障害者の被害は1990年代以降急速に増加していること,(2)1990年代以降知的障害児者の被害が増加していること,(3)同時期に特に成人期の知的障害者が殺される事件が急増していること,(4)在宅・同居の場合に事件が起こることが圧倒的に多いが,施設に入所していたにも関わらず被害に遭うケースも散見されること,(5)1990年代以降高齢の親による加害が増加していること,が明らかとなった.以上の結果をもたらした要因を,各時代の社会的背景をも考察しつつ検討し,そこから親を中心とする家族が第一義的にケアを負担するシステムの矛盾を指摘した.
著者
岡本 民夫 藤野 好美 平塚 良子 牧 洋子 戸塚 法子 久保 美紀 木原 活信 信川 美樹 日根野 健 空閑 浩人
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.150-171, 1999

Recently we find that the studies of skills in social work are on the increase. But we have not much knowledge about it which has important, essential impact in social wroker' s activities. To practice social work effectively, social worker needs generic / spesific knowledge and mastery of interventions and values. He or she selects useful knowledge and intervention, being guided values of clients and professional values. Then under the contract between a client / clients and social worker, he or she prorvides social services to people and improves their life situation, changes systems / environments of them, understanding causes and backgrounds of their life problems. But guided values and knowledge, slills of social worker function these whole processes of practicing. In this meaning, skill is a central part of social work pracice. We recognize that social work skill depends on social worker's abilities and aciviteis as a profession, also we need to develop a unique whole system of skills in our ptactice. In this paper, we disscuss and analyze, make it clearly from reviewing some research of the pioneers ; (1) what social wrok skill means, (2) what and how position and function of skills in social work practice are, (3) what role of skill is, in case of sescientific practice and creating scietific social wrok with an uniqeness, also (4) what and how relation of a speciality of social work uniqueness (the nature of social work) and skill is, etc.. There, we find several important points and tasks about research of them. There is deferential part in use of term and difintion of skill between pioneers. But the term and defintion of social work skill is very important. They symbolize whole social wrok idntity (uniqueness), especially professional identity, and scientific identity and originality, social meaning of itself. Additioning to say, there are somoe discreminations of concepts and construcions of skills of each pioneers, some are clear and elaborate, some are loose, unclear and limitted. Those indicate it's unmatured level of study. So we need more research of social work skill and must relate it to methodological perspectives under the uniqueness and originality of social work. Finally, We suggest more ideas of how to research skill. Especially we streess that we build up and refine feedback-loop procseess system of research of skill ; "Teaching knowledge, values, skills-Learning-Scientific Practice-Analyzing / verifying-Scientific Aproach of Doing / Practicing (Creating / Recreating and Constructing / Reconstructing new knowledge, values, skills)-Teaching...".
著者
角崎 洋平 村上 慎司
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.119-131, 2016-08-31 (Released:2019-02-15)
参考文献数
10

2002年以降日本において,生活福祉資金貸付版のリバースモーゲージ制度が実施されているが,その運用実態は解明されていない.本稿の目的は,このリバースモーゲージ制度の運用実態を実証的に把握し,その問題点を確認するものである.調査は,全国47都道府県の社会福祉協議会に対して郵送された自記式調査票に基づいて実施した.33都道府県の社会福祉協議会から回答を得た.本調査結果を通じて,(1)要保護世帯向けリバースモーゲージの今後の債権回収が懸念されること,(2)債権回収に際して競売を避けるために相続人の任意の協力に依存せざるをえなくなっていること,(3)借受人の同居遺族の居住福祉にネガティブな影響を与えていること,(4)社会福祉協議会と福祉事務所の連携が不十分であることが明らかになった.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.126-140, 2018-07-20

変容している生活問題への対応が十分とは言えないなか,社会的に排除されている人々に対して地域を基盤とした総合的かつ包括的支援が展開されている.なかでも,制度の未整備などには法律・制度・サービスの改廃・創設を含む構造的変化を促す組織的活動であるソーシャル・アクションが必要だと言えるが,研究と実践ともに蓄積が乏しい状況である.そこで,本研究ではソーシャル・アクションの実践を体系的に把握することを目的とし,成果が確認された社会福祉士による42の実践事例を分析した.その結果,近年実践されているソーシャル・アクションは当事者の参加度が低く,かつ介入対象レベルが狭いことが明らかになった.実践プロセスは,制度などに関する課題に気づき,課題を把握し,課題理解促進や関係者の組織化を並行して行いながら,構造的変化を目的とする組織的活動を行っており,日頃からのネットワークや実践の蓄積などの基盤が不可欠だと考えられた.
著者
今井 小の実
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.1-16, 2022-02-28 (Released:2022-05-21)
参考文献数
28

本研究の目的は,1917年7月に制定された軍事救護法の成立過程を明らかにすることによって,同法の誕生が“福祉”行政の創設をもたらしたことを検証することにある.同法の成立により救護課ができ,それがその後の社会事業行政の始まりとなったことから,このような認識は従来から共有されてきたが,その具体的な検証はなされてこなかった.この研究では,陸軍省作成の法案(1916年8月)と内務省案(1917年5月)を比較検討し,軍事救護法が最終的に内務省の思惑を反映してつくられたことを検証する.その際に陸軍省が懸念を示していた四種類の救護と,最後まで抵抗を示した私設団体への委嘱を,内務省が方策を講じ,後者についてはのちの施行令に入れることによって最終的にその目的を遂げたこと,そしてそれが戦後の福祉行政にもつらなる重要な要素であったことを明らかにする.
著者
石川 時子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.5-16, 2007-05-31 (Released:2018-07-20)

本稿は,従来社会福祉においてパターナリズムという語が,自律を抑圧すると否定的に集約されがちなことから,その概念と正当化基準を検討し再考したものである.先行研究からは5つの正当化基準を導き,近年は抑圧を回避すると考えられている「自律を尊重するパターナリズム」が論じられる傾向にあることを明らかにした.この基準は,被干渉者の個別性や自律を重視する社会福祉においても,親和性の高い基準といえる.しかし,通常パターナリズムとは批判的に扱われるため,その批判がどのような思想に基づいているのかを3点に要約した.パターナリズムを必要と考える場合と批判的にとらえる場合の相違点は自律の解釈にあるといえる.最後に,自律を尊重するパターナリズムの論には,自律概念の多義性と自律概念に内在しうる価値判断によって,抑圧的に作用する場合もあり,パターナリズムの正当化基準においては十分とはいえないことを明らかにした.