著者
猪又 秀夫
出版者
地域漁業学会
雑誌
地域漁業研究 (ISSN:13427857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.57-85, 2015-10-01 (Released:2020-06-26)
参考文献数
54

ノルウェー(諾)の漁業及び漁業管理を理解するため,大型まき網漁業によるタイセイヨウサバの漁獲を対象として,漁船別漁獲枠(IVQ)方式下の操業形態や価格形成を具体的なデータで確認することを通じてその収益性の背景について分析を行った。諾の大型まき網漁業は,一般的な個別漁獲枠(IQ)方式が理念上想定するような柔軟な操業は行っておらず,毎年,タイセイヨウサバの魚群が近海に来遊する秋期の2ヶ月間に個別漁獲枠を集中的に消化しており,その間の一次価格は,販売組合による一次販売の独占を義務付け,最低価格を設定する諾独自の法制度に支えられていることが示唆された。また,大型まき網漁業の高い収益性の背景としては,減船事業やIVQ方式を通じた中長期的な構造調整がもたらす漁船数の大幅な減少と漁船の大型化・近代化に加えて,1990年代以降に顕著となった世界的な水産物需要の拡大に伴う魚価の上昇が貢献していると考えられた。諾漁業の成功は,諾特有の自然環境と輸出産業に特化した生産流通システムを前提として,IVQ方式も含め,これらに適合した複合的な制度・政策によって達成されていることは,我が国漁業のあり方を考える際に重要である。
著者
猪又 秀夫
出版者
地域漁業学会
雑誌
地域漁業研究 (ISSN:13427857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.45-72, 2014-10-01 (Released:2020-06-26)
参考文献数
83
被引用文献数
2

2009年にノーベル経済学賞を受賞したE.オストロムは,集権的政府や自由市場に依らずとも,資源利用者の自主的な協力によって共有資源を管理できることを理論と実際の両面から実証している。日本における漁業管理は,政府の公的管理を基本としつつも,漁業者の自主的な協力が大きな役割を担っており,「日本型」と形容される。本稿では,オストロムのコモンズ論が日本型漁業管理に適用できるかについて,先行研究をレビューするとともに,公表資料を用いて予備的な検討を行った。結果,地先水面における漁業はもとより,比較的大型の漁船により営まれる沖合域における漁業の管理についても,オストロムが提唱する制度設計原則や,社会関係資本,多中心性といった考えが相当程度適合することが認められた。今後更なる検証が必要であるものの,日本型漁業管理は,概してオストロムの理論に裏打ちされていると考えられる。