著者
玉井 久光 田中 敏子
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.1091-1099, 2000-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
42
被引用文献数
1

北九州市内の歯科医院において抜去収集された乳歯350本を対象として,乳歯のエナメル質及び象牙質に含まれるSr,Al及びMn濃度と齲蝕との関連性を検討した。乳歯は齲蝕経験のない健全歯群,齲蝕未処置の齲蝕歯群及び充填歯群の3群に分類し,エナメル質と象牙質とに分離した。両歯質中のSr,AI及びMn濃度はフレームレス原子吸光分光光度計を用いて測定した。健全歯エナメル質中のSr,Al及びMn濃度はそれぞれ,71.1±24.0μg/g,37.0±27.3μg/g,3.03±1.53μg/gであった。また,象牙質中のSr,AI及びMn濃度はそれぞれ,67.4±23.0μ;g/g,33.9±28.2μg/g,0.92±0.74μg/gであった。健全歯群で性差を検討したところ,エナメル質,象牙質ともSr,Al及びMn濃度に性差は認められなかった。次に,健全歯群で歯種別差を検討したところ,Sr濃度に差は認められなかったが,AlとMn濃度については歯種別差が認められ,エナメル質,象牙質とも,乳犬歯に比べ乳切歯は約1.7-2.1倍も高かった。健全歯群,齲蝕歯及び充填歯群の歯質中Sr濃度は近似しており,齲蝕との関連性は認められなかった。Al濃度については,健全歯群は齲蝕歯群及び充填歯群と比較して有意に高く,エナメル質でそれぞれ1.6倍,1.4倍,象牙質でそれぞれ1.6倍,2.3倍であった。また,乳切歯のみを用いて検討しても,健全歯群は,齲蝕歯群及び充填歯群と比較してそれぞれエナメル質で15倍,1.4倍,象牙質で1.6倍,25倍と有意に高かった。健全歯群,齲蝕歯及び充填歯群の歯質中M11濃度は近似しており,齲蝕との関連性は認められなかった。乳切歯のみを用いて検討しても同様であった。以上のことから,SrおよびMnには齲蝕との関連性は認められず,Alは抗齲蝕作用を持つ元素であることが強く示唆された。