著者
玉井 晃子 大橋 翼
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb1263-Eb1263, 2012

【はじめに、目的】 訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)の実施にあたり転倒予防は最も留意することの一つであるにもかかわらず、時折発生しているのが現状である。これまでにも在宅高齢者、在宅障害者、施設入所者に対し多くの転倒に関する調査が実施されているが、訪問リハを利用している在宅障害者に関しての調査はあまり見受けられず、今後の検討目的で今回当ステーションでの実態調査を行った。【方法】 対象は2009年10月から2010年9月までの1年間に当訪問看護ステーションの訪問リハサービスを利用した177名(男性85名、女性92名 平均年齢男性70.8±11.1歳、女性75.3±13.9歳)利用者の転倒状況の把握は訪問時に利用者本人、家族からの報告を受けること、および担当者側から積極的に転倒の事実がないかを尋ねることで行った。転倒者に関しては各担当者が転倒調査票に基本情報、疾患、歩行自立度(自立、介助、不可)、転倒状況等を記載することで調査を行った。転倒発生率(転倒率)=(調査期間中に転倒した人数/対象者数)×100とした。統計解析は年齢についてはt-検定、男女の比較にはカイ2乗検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 調査の処理の際には氏名の特定はせずプライバシーの保護に配慮し実施した。【結果】 1年間で30名(35件)の転倒があり転倒率は16.9%であった。男女別には男性19名(転倒率22.4%)女性11名(転倒率12.0%)転倒者の平均年齢は男性71.0±8.0歳、女性76.2±7.8歳であった。疾患および歩行自立度別には転倒率が20%以上となったものは認知症・介助群100%、失調症・自立群50.0%、パーキンソン病、パーキンソン症候群・自立群50.0%、その他内科疾患等・介助群33.3%、右片まひ・介助群31.0%、右片まひ・自立群29.0%、四肢まひ・介助群29.0%、パーキンソン病、パーキンソン症候群・介助群25.0%、左片まひ・介助群20.0%であった。次に転倒状況に関して、転倒が生じたのは歩行時か否かは歩行時17名(男性12名、女性5名)歩行時以外(起立、移乗時等)17名(男性8名、女性9名)不明1名(男性)であった。すべての転倒は家屋内で生じていた。また転倒は日常よく行っている動作の中で生じたか、めったに行わない予想外の動作を行い生じたのかでは日常的な動きの中で18名(男性8名、女性10名)予想外の動きで16名(男性12名、女性5名)不明1名(男性)であった。転倒者の転倒歴は有りが15名(男性9名、女性6名)無しが15名(男性10名、女性5名)であった。転倒時の受傷に関しては無しが18名(51.4%)内出血・切傷8名(22.9%)痛みの持続7名(20.0%)骨折2名(5.7%)であった。統計学的には年齢、男女別において有意差はみられなかった。【考察】 まず転倒者の男女別に関して、一般の在宅高齢者に関する調査では女性のほうが男性よりも転倒頻度が高いとする報告が多いが今回の調査ではその傾向はなかった。一般に女性の転倒が多い理由として筋力の弱化や立位保持能力の低下が男性に比し大きいといわれているが障害者に関しては男女いずれもそれらが低下していると考えられるため男女差は出なかったのではないかと思われる。また転倒時の状況に関して約半数が日常的ではない予想外の行動をとった時に生じていた。(特に男性にその傾向があった)日常的な動作指導、環境整備に比し、この点に関しての改善策を立てるのはなかなか困難であるが色々な場面を想定し対策を立てていくことが必要かと思われる。転倒の内的要因の原因となる疾患として脳血管障害を始め様々なものがあげられており、在宅障害者はほぼ全例そのいずれかに当てはまる状況であると思われる。今回の調査では特に歩行が介助状態にある認知症者は全例転倒しており筋力等身体的な低下に加え認知面での低下があるとより転倒リスクが高まるものと考える。在宅障害者の年間転倒率は50%以上とする報告がみられるが、今回訪問リハ利用者の転倒率は16.9%であった。調査方法の相違等もあるため単純に比較できないにしても低値を示しているのは訪問という形で実際に生活場面への介入が行えるからではないかと思われる。今後この転倒率をさらに下げるべくアセスメント表の作成や身体機能面、環境整備、動作指導等さらなる検討、また他施設とも共同して調査を行えていければと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の調査結果は転倒に関しての一資料になると思われる。