著者
玉懸 元
雑誌
文学部紀要 = Journal of Faculty ob Letters
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.248-233, 2016-03-15
著者
玉懸 元
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.168-169, 2000-09-30

現在仙台市では語彙・文法・音韻など各面において共通語化が進んでいるが,そのような中でなお活発に行なわれる方言形式として終助詞「ッチャ」がある。本研究は,その終助詞「ッチャ」を取り上げ,その談話機能という点に注目して記述を行なったものである。終助詞「ッチャ」は,(1)当のことが相手にとってのそもそも分かること・知っていることのうちに含まれるはずだという想定を表わすことを基点として,文脈によっていくつかの機能を担う。まず,(2)(甲・乙は兄妹)甲:兄チャン 和英辞典 ドコダッケ 乙:居間ノ 本棚ダッチャのように,相手が今・この場においては当の事柄を忘れている・気付いていないといった場合に用いられると,(3)当のことを相手に思い出させる・気付かせるという機能を果たす。言うまでもなく,これは(1)を表わす「ッチャ」が当該文脈において使用されることによって必定発現する機能である。また,(4)(部屋の日当たりの話)甲_1:オレノ 部屋 西向キ ダッチャー 乙:アー ウン 甲_2:ダカラ 朝トカ 昼間トカ ゼンゼン ヒー 入ンネーヨワのように,相手のもともと知っている・分かるはずのことであってもこれから自らが展開させていこうとする発話内容にとっての土台となることとして敢えてそれを取り上げておきたい場合に「ッチャ」を用いるという用法も可能であるが,この場合(3)の機能に加えて,(5)相手に後続の発話を期待させ待機させるという機能が担われる。これは,隣接対第一発話位置において相手のそもそも分かることや知っていることをわざわざ述べるという行為が持ち得る語用論的効果に基づいて発現される機能である。本研究は,第一に,従来直感的・断片的な記述に止まっていた当方言の「ッチャ」についてその談話機能の非一様性を示しそれらを関連付けて記述した点にその成果を求められるが,さらには(1)日本語の終助詞(より広くは文末形式)の多様性(2)共通語化の過程,といったより広い視野からの課題を検討していくための具体的資料としての意義をも併せ持つものである。
著者
玉懸 元
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.30-43, 2001-06

本稿では,若年層を話者とした調査結果に基づき,仙台市方言の終助詞「ッチャ」の用法を整理して記述する。「ッチャ」の用法は,用例の観察を通して,次の(1)(2)(3)に整理される。(1)対話用法A:そもそも知っているはず・分かるはずの事柄を忘れている・気付いていない,ということが相手から看取された場合に,その事柄を取り上げて「ッチャ」を使用する。(2)対話用法B:相手のそもそも知っているはず・分かるはずの事柄を,後続させる発話内容の土台になることとして取り上げておきたい場合に,その事柄を取り上げて「ッチャ」を使用する。(3)独言用法:自分自身がある事柄を思い出した・ある事柄に気付いたといった場合に,その事柄を取り上げて独言的に「ッチャ」を使用する。(3)は(1)を自己内対話的に拡張したものとしてその関係が理解される。また「ッチャ」の本質を把握することによって,(1)と(2)との関係も理解される。なお,以上のような記述を通して,現代方言において共通語化を免れている方言形式の具体的様相とその理由に関する問いに対して,ひとつの見通しが得られることになる。