著者
王 先哲
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.142-158, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
23

本稿は,親しい日本人女性同士の依頼会話のビデオを中国人日本語学習者(C)と日本語母語話者(J)に視聴してもらい,両者が被依頼者の行動をどのように予測するか,何を手がかりに予測するかを認知の視点から,比較,考察したものである。 分析の結果,依頼直後に被依頼者が内容の確認をしている段階から,CよりJの方が断られると早く予測し,一度断られると予測したら,その後も,引き受ける可能性があると予測を立てる者は少ないことが分かった。また,報告された予測の手がかりにも違いが見られた。CはJより被依頼者からの依頼内容に関する「情報要求」を受諾の兆候だと認識する者が多く,被依頼者の念押しの「確認要求」に対して,被依頼者の顔の表情や姿勢など「表象的手がかり」を合わせて,予測の根拠に挙げる者も多かった。一方,JはCより「依頼内容の負担度への言及」,「責任感の表明」を拒絶の前触れだと認識する傾向があり,特に「責任感の表明」に対する認識は日中の間で大きく異なることが分かった。