著者
王 欣蕙
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
pp.1-70, 2016-03-25

世界の先進諸国では、外国籍であって、かつ定住する大量の移民人口が生まれている。「定住外国人」と呼びうる人々が先進国で人口の5%以上、国によっては一割以上にも達している(ハンマー1999)。日本は外国籍者についても、もはや外国人市民の参加をめぐる議論の埒外に置くことはできなくなっている(宮島2000)。これからの自治体に必要なことは、それぞれの地域で本当に必要とされ、自らの責任において住民のニーズに応え、住民のための政策を設計することである。現在の日本で外国人が多く居住する地域では、地域社会の構成員として共に生きていくような社会づくりを実現する為、外国人住民の声を積極的に聞こうとする「外国人住民会議」が、地域自治へ参加する一つの手段として考えられる。本研究は、外国人市民が集中する地域において、外国人市民が地域自治により参加しやすくなるように自治体の政策設計の有効な方法を提案する。本研究においては、外国人市民の割合が高い自治体の多文化諮問機関としての川崎市外国人市民代表者会議、外国籍県民かながわ会議と神戸市外国市民会議を対象事例に選び、設置根拠、代表性、フォローアップ体制の三つの要素が外国人住民会議の実効性に与える影響について比較分析を行う。本研究で用いる「実効性」とは、外国人住民会議を設置して以来、提案に基づき、どのような問題を解決されたかという事を指す。そこで、外国人住民会議の実効性に影響する原因について、本研究では、大きく以下の3つの仮説に基づいて、分析を行う。仮説1: 多文化の歴史や構造的条件の違いが、参加の制度に影響を与え、外国人会議の設置条例を制定するか否かに影響を与える。会議の実効性はその設置根拠に影響される。仮説2: 会議の宣伝のあり方と代表者募集のあり方は会議の代表性と実効性に影響を与える。仮説3: 提言の実施のフォローアップ体制は、会議の実効性に影響を与える。仮説を検証するため、三つの対象会議について、会議の設置背景と目的、参加者の募集方法、会議の宣伝方法、会議の提言の実施のフォローアップ体制、提言の実施状況について、文献調査等で基本状況を把握した上で、各会議の担当者と会議の参加者にヒアリング調査を行う。会議の効果の検証に、必要とされる行政データを用い、三つの会議を比較することで実効性を測定した。その結果、仮説1については、三つの事例の過去の経緯や歴史的な分析の結果を踏まえ、多文化の歴史や構造的条件の違いにより、会議の設置根拠は会議実効性に影響があることについて明らかにした。仮説2について、三つの外国人市民代表者の応募者数の増減傾向の分析を踏まえ、応募者数の増加により、本研究で用いる「代表性」の評価基準から見た外国人住民の人口の構成に対する会議の代表性が高くなった。会議の宣伝と代表者募集のあり方は会議の代表性に影響を与えたと言える。さらに、会議の代表性は会議の実効性に影響を与えたことが分かった。仮説3は、フォローアップ体制の分析では、会議の過去の提言と取り組み状況を確認した結果、会議の実効性に影響を与える要因であることを明らかにした。以上の結果を踏まえ、会議の実効性を向上するための提案を行った。まず、参加の制度において、会議は条例設置とすべきである。次に、代表性について、会議の参加者を増やすことが必要である。そのため、川崎市や神奈川県など、日本国籍を有するものの認可しない多くの自治体の外国人住民会議も、神戸市と同様、その参加条件を和らげる事は検討に値する。また、会議の傍聴者の増加は、会議の参加を促す。会議傍聴の案内はホームページだけでなく、市民会館、交流センターなど等々に配布すべきである。より多く、より多様な傍聴者を得ることは、会議の状況を実際に把握し、参加者になる可能性があると考える。最後に、外国人住民会議の過去の提言の取り組み状況を調査し、チェックするフォローアップ体制を作ることが会議の実効性の向上に繋がる。以上は会議の実効性を向上するための提案である。