著者
畑下 拓樹 田上 徹 濱西 啓記
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0044, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高齢者は加齢に伴う様々な要因により,低栄養に陥りやすく,低栄養により運動・生理機能の低下が助長される。若林秀隆らにより,リハビリテーション(以下:リハ)を行っている入院患者の多くが低栄養状態であるという報告が数多くなされている。一方,病院を退院後の地域在住高齢者の栄養状態に関する報告は少ない。しかし,リハの対象となる地域在住高齢者においても,入院患者と同様に低栄養状態であることが予想され,リハを実施する際に栄養状態を把握することが必須と考えられる。そこで,通所介護施設利用者における栄養状態と運動機能の関連について調査し,要介護認定を受けている地域在住高齢者に対するリハビリテーション栄養(以下:リハ栄養)の必要性を検討した。【方法】当社の通所介護施設利用者53名(男性:28名,女性:25名)を対象とした。栄養状態をMini Nutritional Assessment-Short Form(以下:MNA-SF)にて,運動機能をShort Physical Performance Battery(以下:SPPB)にて評価した。栄養状態はMNA-SFの点数により低栄養(0~7点),At risk(8~11点),良好(12~14点)の3群に分け,それぞれの群の,SPPBの点数を比較した。また,SPPB各項目(バランス,歩行,立ち上がり)の栄養状態別の点数も合わせて比較した。【結果】対象者53名の内MNA-SFによる分類では,低栄養10名,At risk11名,良好32名となった。SPPBの平均点数は,低栄養群5.2±3.0,At risk群5.5±3.1,良好群8.3±2.6であり,低栄養群と良好群,At risk群と良好群で有意な差がみられた(p≦0.01)。また,SPPBの各項目では,バランスの項目では低栄養群2.0±2.4と良好群3.5±0.8で,歩行の項目ではAt risk群1.5±2.7と良好群3.2±1.7で,有意な差がみられた(p≦0.01)。立ち上がりの項目では各群間に有意な差は見られなかった。【考察】通所介護施設利用者の内,低栄養状態にある者が18.9%,At riskの状態の者が20.8%と合わせて全体の39.6%もの割合を占めており,それだけ,要介護度が重度化するリスクのある者が潜在的にいることが分かった。また,SPPBの点数が,栄養状態良好群でも8.3±2.6(中間機能)であったのは,通所介護施設利用者は,脳血管疾患による運動麻痺,運動器疾患による疼痛や筋力低下など,運動機能を低下させる症状を有しているため,SPPBの点数が低かったと考えられる。SPPBの各項目の点数と栄養状態とでは差がある群にバラつきが見られたが,SPPB全体の点数と栄養状態では,栄養状態が悪化する程SPPBの点数が低下することが示唆された。これは,疾患による一次性の運動機能の低下に加え,低栄養によってサルコペニアを進行させ,運動機能の低下を助長していることが示唆される。ADLやIADLの改善を目的に通所介護施設を利用している低栄養状態やAt risk状態の高齢者に,高い活動量のサービスを提供することで,運動機能や生理機能などが低下し,かえってADLやIADLのレベルを低下させ,要介護度の重度化を招くことが懸念される。このことから,介護予防の観点からもリハ栄養の実施は必須であること考えられる。そのため,通所介護施設利用者の栄養評価を出来る限り行い,栄養状態を把握した上で,サービス利用時の活動量や内容を検討していく必要があると考えられる。また,可能であれば管理栄養士や栄養士,看護師などと協力し,栄養指導なども並行してサービス提供していくことが望まれる。【理学療法学研究としての意義】通所介護施設利用者への調査を通じて,主に要介護(要支援)認定を受けている地域在住高齢者に,リハ栄養を実施していくことの必要性,また,同時には理学療法士も栄養についての最低限度の知識を有しておく必要性を提示できたのではないかと考える。また,具体的なリハ栄養の取り組みを検討・実施していき,その有用性の検証などが今後の課題であると考える。