著者
中村 和昭 田上 昭人
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.392-393, 2013-10-15

●V1aRとV1bR アルギニンバソプレッシン(AVP)は9アミノ酸残基からなる神経ペプチドで,視床下部室傍核および視索上核において産生される下垂体後葉ホルモンである。AVP受容体はV1a,V1b(V3)およびV2の三つのサブタイプに分類される。V1a受容体(V1aR)は血管平滑筋,肝臓,副腎,中枢神経系,子宮筋,血小板,腎臓に分布し,中枢神経系では特に中隔,大脳皮質および海馬に分布している。V1b受容体(V1bR)は下垂体前葉,大脳皮質,扁桃体,海馬,膵臓に分布している。V1aR,V1bRおよびV2RのいずれもGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり,V1aRおよびV1bRは三量体Gタンパク質Gqと共役し,イノシトール代謝回転とそれに伴う細胞内Ca2+濃度の変化がシグナル伝達機構である。AVPは同じく9アミノ酸残基からなる下垂体後葉ホルモンであるオキシトシン(OXT)と近縁のホルモンであり,両ホルモンは2アミノ酸のみ異なる。受容体間の相同性も高く,ヒトにおいてはAVP/OXT受容体間で42-55%の相同性を有する。さらに,受容体は種間において高度に保存されており,同一受容体の種間での相同性は90%を超える。ヒトにおいて,V1aR,V1bR,V2RおよびOXT受容体(OXTR)はAVPと同程度の親和性で結合する。一方,AVPの各受容体とOXTの結合は弱く,AVP受容体に対するOXTのKi値はOXTRに対するKi値の100倍あるいはそれ以上である。このようなリガンド間ならびに受容体間の高い相同性およびリガンド/受容体結合様式は,GPCRがどのようにそのリガンドおよび受容体ごとに特異な機能を発揮しているかを検討する良いモデルとして研究が進められてきた。これまでの検討から,AVP受容体の細胞外領域および膜貫通領域がリガンド-受容体の結合特異性に重要であることが示されている1)。 V1aR遺伝子欠損マウス(V1aR-/-マウス)およびV1bR遺伝子欠損マウス(V1bR-/-マウス)は,様々な表現系を呈し,その解析からV1aRおよびV1bRを介するAVPの新たな生理作用が明らかになってきている1)。
著者
田上 昭人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.189-196, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
18

ヒトゲノム計画の進展により,診断から薬の創薬まですべての過程は大きく影響を受け,近い将来には“ありふれた病気”に対しても患者の遺伝的体質に合わせた処方,治療が可能となる.このゲノム情報・技術をもとに患者各人に個別至適化した“テーラーメイド医療”を現実化するために,薬理ゲノミックスは,有用となる.薬理ゲノミックスの具体的方法論としてsingle nucleotide polymorphism (SNP,一塩基多型),特に,薬物応答性に関する遺伝子のSNPが重要となり,その解析法が開発されつつある.現在,SNP解析に用いられている高感度・高速度の解析法について紹介する.