著者
遠藤 辰雄 田中 教幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の初年度では我々が過去に国内の遠隔地(幌加内町母子里北大演習林)において行なった酸性雪の観測の解析を進めた結果によると、硝酸塩も硫酸塩と同様に長距離輸送物質である可能性が示唆されている。そこで2年次において、これが長距離輸送物質であることを特定するために、充分なる遠隔地として北極圏のニーオルソンを選び、そこで降雪粒子と環境大気中のエアロゾルやガスの成分を調べてみた。その観測は1998年12月16日から1999年1月9日までと同年3月2日から同月18日までの擾乱の到来頻度の高い二期間に行なわれた。酸性雪の採取には地吹雪きの混入を避ける為に大型の防風ネット設置し、その中で蓋付きの受雪器を並べておき、降雪時のみ蓋を開けて受雪して,降雪が止むと蓋をしてドライフォールアウトの混入を辞ける様にした。さらに地上降雪観測として独自で開発した電子天秤方式の降雪強度計とTime-lapse-videoによる降雪粒子の顕微鏡写真の録画システムも防風ネットの中に設置した。まだロ―ボリュムエアサンプラーによる濾紙法で大気試料がそれぞれ採取され、環境大気のガス状成分とエアロゾルの化学成分がそれぞれ分析された。この時期の現地では珍しく比較的風の弱い状態の降雪が多く降雪粒子が長時間に亘って採取された。初めの12月〜1月の期間の分析結果では次のことが注目された。大部分の降雪粒子は風向が東南東で、雲粒付結晶であるが、風向が北西である時の降雪では雲粒の付かない雪結晶が多く観測されている。その降雪粒子の化学成分は、他と比べて、S042-が少なく、逆にN03-が多くなっているのが明らかな特徴である。この結果は、これまでの日本国内での観測結果と一致して矛盾はしていない。この風向から降雪をもたらす気流の起源を、考察してみると、現地から見て、東南東の気流はメキシコ湾流が北上して出きる北限のopen-seaからの気流であり、 水蒸気が豊富で過冷却の雲粒が高濃度で生成されていたもの考えられる。一方、北西の気流は現地から更に高緯度の北極海の結氷している氷原野からの気流であるので低温であることも含めて、水蒸気量はかなり希少であり、過冷却の雲粒はほとんど蒸発し、降雪粒子は気相成長のみで成長するために、雲粒の付かない綺麗な雪結晶が卓越するとが考えられ、その発生源が明確に特定できる。ここで得られた新しい知見は次の事柄である。長期間の降雪の末期では降雪に含まれるN03-が減少して検出限界にまで達してしまうが、その環境大気の成分変化を見るとHNO3ガスより粗粒子のエアロゾルに含まれるN03-が減少していることである。このことからガスの物理吸着機構よりエアロゾルのスキャべンジング効果がより効いていることを示唆している。
著者
白岩 孝行 田中 教幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

北太平洋で発現する十年〜数十年周期の気候変動(DICE : Decadal and Interdecadal Climatic Event)の過去500年間に及ぶ変動周期と変動する気候・環境要素を、1998年にカムチャツカ半島ウシュコフスキー氷冠で掘削された全長212mの雪氷コアを用いて解明した。山岳地域に発達する氷河は、流動機構が複雑なため、表面に堆積後の歪みが著しい。このため、同氷冠の動力学を解析的手法、数値計算によるシミュレーションの二つから追求し、歪みを除去するための力学モデルも開発した。酸素・水素同位体比に見られる季節変動を用いて、表面から深度120mまでの年代を±2年の精度で決定した。その上で、解析的な力学モデルを用いて各深度の積算歪み量を算出し、同位体の季節変動によって定義される年層を表面相当の値に換算した。その結果、過去170年間に及ぶ涵養速度および酸素・水素同位体比の時系列データを雪氷コアから抽出した。上で取り出した時系列データについて、スペクトル解析を行って、変動の卓越周期を算出した。その結果、涵養速度には32.1年、12.2年、5.1年、3.7年の周期、酸素同位体比には11.5年と5.0年という周期が検出された。これら二つの時系列データは、Mantuaらによって定義された北太平洋のレジームシフトを示すPDOインデックスと負の関係にあり、北米沿岸のSSTが高い温暖期にはカムチャツカ半島で涵養速度が遅く、SSTが低い寒冷期にはカムチャツカ半島で涵養速度が速いことが判明した。