- 著者
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田中 昂平
古屋敷 智之
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.139, no.4, pp.152-156, 2012 (Released:2012-04-10)
- 参考文献数
- 29
ストレスはうつ病など精神疾患のリスク因子とされる.しかしストレス脆弱性を担う分子メカニズムは不明である.小動物研究から,心理ストレス下での行動制御にサイトカインやプロスタグランジン(PG)など炎症関連分子が関与することが示されてきた.近年,PG合成阻害薬である非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の併用により,抗うつ薬の治療効果が増強するとの臨床報告も散見される.しかし,ストレスやうつ病病態における炎症関連分子の作用機序は不明であり,炎症関連分子を標的とした創薬戦略は確立していない.我々はPGE2の受容体EP1の遺伝子欠損マウスが,ドパミン系の活動亢進により,攻撃性や断崖からの飛び降りなどの衝動性を呈することを見出した.この表現型に合致し,EP1はドパミン細胞への抑制性シナプスに局在し,ドパミン細胞への抑制を増強することも示された.その後の報告では,PGE受容体EP4による抗不安作用やトロンボキサン受容体TPによる砂糖水嗜好性制御など,情動行動に関わる新たなPG受容体も同定されている.NSAIDは,抗うつ作用を増強するのみならず,一部の抗うつ薬の作用を阻害することも報告されている.またNSAIDの慢性投与では消化器や循環器における副作用がしばしば問題となることから,PGの各種受容体特異的な機能解析と,それに基づく創薬研究が,新たなうつ病への治療戦略開拓に繋がると考えられる.