著者
山内 加奈子 田中 美紗 加藤 匡宏 大西 美智恵
出版者
香川大学
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.65-75, 2008-03

とし子(仮名)は,早産(24週)で出生した超早産児である.とし子は,脳性麻痺や知的障害がないにも関わらず,2歳2ヶ月(修正月齢23ヶ月)になっても母親をふくめて誰に対しても発語がなく,主治医は彼女が言葉の遅れがある可能性を示唆した.主治医は,とし子に母親からばかりではなく社会からの言語刺激を与える必要があるとして,筆者らのプレイルームを紹介した.高等教育を受けた母親は,とし子をバイリンガル児に育てようとしていた.遊戯療法の第1期において,筆者らは,とし子が赤ちゃん人形でままごとをして遊んでいることを認めた.しかし,とし子は,運動技能を要求されるような,例えば跳びはねたりバランスを維持したりするトランポリンやラージセラピーボールの上ではねるなど体全体を使う遊具を嫌った.筆者らは,アニメーションキャラクターの声が聞こえるおもちゃの電話を用意した.そのころから,とし子はトランポリンや大きなセラピーボールの上で遊び始め,家庭では「パパ,ママ,じじ」とか「ブーブ」などの1音節の擬態単語を声に出せるようになった.遊戯療法の第II期において,とし子はトランポリンや大きなセラピーボールの上でのダイナミックな動きに伴って,1音ずつの単語が出てくるようになった.とし子は,家庭で両親など周りの人々が言った言葉やTVで聞いた言葉を真似するようになった.第III期に入ると,とし子は,買い物ごっこ遊びに興味があると言い始めた.第III期のおわりには,買い物ごっこ遊びを通じて,筆者らは,とし子と相互的な言語コミュニケーションが可能となった.つまり,筆者らは,遊戯療法において,色々な身体的刺激を与えることによってとし子の表出性言語障害を治療することに成功した.遊戯療法による日本語教育がとし子の表出性言語障害に治療的効果があったことから,日本人の両親が幼児期において子どもをバイリンガル児に育てるという試みは,子どもの言語発達に害を与える可能性があることを示唆する.