著者
田原 省吾
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子化學 (ISSN:00232556)
巻号頁・発行日
vol.23, no.253, pp.303-309, 1966-05-25 (Released:2010-10-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ポリカーボネートの紫外線照射による劣化機構について, 主として赤外および紫外分光分析法により解析し, その劣化機構に2種の波長依存性が存在することを明らかにした。1) 太陽光にも含まれる約280mμ以上の長波長紫外線を照射すると, 炭酸結合部のC=Oのp電子によるn-π*遷移に相当する約287mμの光吸収が起こり, その励起エネルギーが分子内移動現象により炭酸結合部を構成するエーテル結合を切断し, COまたはCO2の系外離脱が起こるとともに, フェノール, エーテル, エステル, 酸などの助色団を生成して解重合反応が進む。2) 約280mμ以下の短波長紫外線域では258~273mμ付近に微細構造を有するベンゼン核のπ-π*禁制遷移による光吸収が起こり, n-π*励起移動と同様に炭酸結合部の切断が起こるとともに, イソプロピリデン結合部への励起移動現象も現われ, おそらくイソプロペニルやジフェニルエチレンなどの助色団が生成しつつ解重合反応が進む反面, 橋かけ反応も進行して不溶化現象が現われるものと思われる。さらに, 本実験では, 生成ラジカル, または反応中間体の寿命が比較的長いためか, 光照射中断後も経時的なスペクトルの変化が認められ, しかも, 長波長紫外線と短波長紫外線とでは異なった継続現象が観測された。