18 0 0 0 OA 麻疹ウイルス

著者
田原 舞乃 竹田 誠
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.3-16, 2017-06-25 (Released:2018-03-29)
参考文献数
104

麻疹ウイルスは非常に感染力と病原性が強く,小児死亡の主要な原因ウイルスであるが,有効なワクチンが存在する.多くの国でワクチン接種を徹底することによって排除が進んでいる.麻疹ウイルスHタンパク質がレセプターと結合することが感染現象の始まりである.麻疹ウイルスは免疫細胞に発現しているSignaling lymphocyte activation molecule (SLAM)と,上皮細胞の基底膜側に発現しているnectin-4の2種類の分子をレセプターとして用いる.麻疹の病態は,麻疹ウイルスがSLAMとnectin-4の両方のレセプターを使うことと強く関係している.Hタンパク質のレセプターへの結合が引き金となって,Fタンパク質による膜融合が起きる.このFタンパク質のトリガーにはHタンパク質のストーク部分が重要である.また,Hタンパク質のエピトープの詳細な解析の結果,レセプター結合部位など,構造的・機能的にアミノ酸変化を許容できない複数の領域がエピトープになっていることが分かった.このことが抗原性の変化が起こらないことのひとつの原因と考えられる.実際に,約60年前の株から作られたワクチンが,現在の流行株に対しても有効性が低下していないことが示されている.
著者
田原 舞乃 竹田 誠
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.249-25, 2011-12-25 (Released:2013-04-30)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

麻疹は,伝染力の強い急性発疹性ウイルス感染症である.一過性の強い免疫抑制を引き起こし,細菌などによる二次感染症が合併することが多く,致死率も高い.2000年に麻疹ウイルスのレセプターが免疫細胞上の分子SLAMであることが明らかにされ,これにより麻疹ウイルスがリンパ節,脾臓,胸腺などのリンパ系臓器を主な標的として感染し,免疫抑制を引き起こす現象の説明がついた.しかしながら,麻疹ウイルスの高い伝染力を説明する分子機構については未解明であった.われわれは麻疹ウイルスがSLAMとは異なるレセプターを用いて極性上皮細胞にも感染する能力をもつことを示したが,最近,Nectin4というアドへレンスジャンクション分子が上皮レセプターであることが解明された.麻疹ウイルスが免疫系細胞と上皮細胞のそれぞれに感染する能力をもったウイルスであることは,麻疹ウイルスの病原性を理解する上で非常に重要な知見である.