著者
田崎 俊之
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.8, pp.105-119, 2009-05-23

現在、日本酒製造の担い手は季節労働者(杜氏や蔵人)から社員技術者へ転換してきている。本稿では、京都市伏見の日本酒メーカーに勤める酒造技術者へのインタビューを通して、彼らがどのようなつながりのなかで技術の習得や継承を行なっているのかを明らかにし、伝統的な杜氏制度と社員体制との間の連続性と変化について検討する。また、分析に際しては実践コミュニティ概念を手がかりとすることで、フォーマルな組織の枠をこえた技術者仲間のつながりを把捉するよう努めた。社員技術者らは、日本酒メーカーの社員であるとともに、技術者たちが形成する企業横断型の実践コミュニティにも参加している。つまり、日本酒製造の担い手が企業に内部化されても、なお企業の内部では完結しない集合的な酒造技術の習得過程が存在している。他方で、社員技術者らの実践は個人的なつながりを基盤とした相互交流へと深化していた。これは、彼らが勤務先である日本酒メーカーをはじめ、技術者の団体やインフォーマル・グループなど複数の所属性をもつことによる。企業横断型の実践コミュニティは日本酒メーカーが当然求めるべき「企業の利益」と産地内での協調という「共同の利益」の両立にせまられており、社員技術者らは相互交流の複数の位相を用いることでこれを可能にしている。