著者
田沼 靖一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.348-353, 1994-05-20 (Released:2017-07-11)

多細胞生物の細胞は自ら死ぬことができる。いわば自殺ともいえる細胞死はアポトーシスとよばれ, 遺伝子にプログラムされた能動的な細胞死である。アポトーシスは多細胞生物の発生過程での体の形づくりや, 成熟個体においては正常な細胞交替, 恒常性の維持に重要な役割を果たしている。また, 最近では, がんや自己免疫疾患, アルツハイマー病などの病態にも深くかかわっていることから, アポトーシスの研究は医学の分野においても注目を集めている。生命はアポトーシスという細胞の消去機構により支えられ, 守られている, といっても過言ではないだろう。