著者
田浦 元
出版者
広島経済大学経済学会
雑誌
広島経済大学経済研究論集 (ISSN:03871436)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.43-55, 2021-03-31

本論文は,企業景況調査を用いたミクロデータ分析により,中国・四国地方における新型コロナウィルスの企業経営への影響の実態を明らかにしたものである。新型コロナウィルスに対する対処は,医学的影響への対処と経済的影響への対処がトレードオフの関係にあることから,感染者数の多い地域についてと同等に,感染者数の少ない地域についての実証的研究が必要である。そこで本論文では,感染者数の少ない地域である中国・四国地方における新型コロナウィルスの企業経営への影響について,代表的な企業景況調査のひとつである中小企業家同友会景況調査(DOR調査)の調査データを用いて,その実態を客観的に明らかにするためのミクロデータ分析を行なった。DOR調査の調査結果データについて,ミクロデータにまで遡り中国・四国地方のデータを抜き出して再集計した。それを時系列化し,業況判断DI値の時系列表および時系列グラフを作成した。この分析により,以下の3点について初めて明らかにした。第1に,中国・四国地方のDOR調査の業況判断DI値の時系列推移表および時系列推移グラフを,わが国で初めて作成した。DOR調査の業況判断DI値について,調査結果の中から中国・四国地方のデータを抜き出して時系列化した先行研究はこれまでに無かった。DOR調査による中国・四国地方の業況判断DI値についての時系列表および時系列グラフは,本稿の分析により初めて作成されたものである。第2に,作成したこれらの時系列推移表および時系列グラフから,中国・四国地方における新型コロナウィルスの影響の実態を,DOR調査の客観的なデータを用いて時系列的に初めて明らかにした。新型コロナウィルスによる影響が現れる直前の2019q4(2019年第4四半期,以下の年期も同様に示す)から,新型コロナウィルスによる影響が発生し始めた2020q1,緊急事態宣言下の2020q2,緊急事態宣言解除後の2020q3までの,中国・四国地方の企業の業況判断DI値の推移を明らかにした。2019q4には,国際経済などの影響で景気後退局面に入っている中で,消費税増税が実施され,企業の景況感はすでに大きく悪化していた。2020q1には,この厳しい企業環境に追い打ちをかけるように,新型コロナウィルスによる影響が現れ始めた。中国・四国地方の業況判断DI値(中国・四国DI)は,2019q4には消費税増税の影響を受けてもなおプラス領域にあったが,2020q1には新型コロナウィルスの影響を受けマイナス領域に大きく下落した。緊急事態宣言が発令された2020q2には,更に大きく下落した。2020q2の中国・四国DIは,大きく下落した前期から更に大きな下落をし,-56.4という極めて深刻な水準にまで落ち込んだ。緊急事態宣言が解除された2020q3には,緊急事態宣言下の時期よりは好転したものの,引き続き極めて厳しい水準となっていることが示された。第3に,作成した時系列推移表および時系列グラフから,新型コロナウィルスによる企業景況への影響は,リーマンショック期の最も悪かった時期とほぼ同水準であることを明らかにした。緊急事態宣言下の2020q2の中国・四国DI値は-56.4であり,DOR調査開始以来2番目に低い値であった。これは調査開始以来最も低い値となった,リーマンショック期の2009q1の-57.3と,ほぼ同水準であった。すなわち今回の新型コロナウィルスによる企業経営への影響は,リーマンショック期の最も悪い時期と同等級の経済的危機であることが,DOR調査の客観的なデータに基づいて初めて明らかにされた。1.新型コロナウィルスの蔓延と企業景況調査のミクロデータ分析 1.1分析の意義と目的 1.2分析に用いる地域の選定 1.3分析に用いるデータの選定 2.ミクロデータの再集計と時系列推移図表の作成 3.中国・四国地方における新型コロナウィルスの企業への影響 3.1新型コロナウィルス発生直前期 3.2新型コロナウィルス蔓延初期 3.3緊急事態宣言発令期 3.4緊急事態宣言解除後 4.結び