著者
田澤 博
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.1-3, 1949

寒地農業は未完成の農業であり, 幼稚な農業である。幼稚なメセに内地の大人の眞似をしだマセた農業である。自然環境の異る所で, 僅々50年, 俄造りに格構すけられた農業である。從て現在寒地農業が直画している問題は極めて多いが, 技術的に觀ただけでも非常に多い。元來農業は技術的に幼稚で差支えないもののように羅され勝であるが, 事實は全く異りているもので, 現在の農業は殆ど郷を除いては全くの經驗農業でしかない。沿革の淺い寒地農業が實績に於て暖地農業に著しい遜色を感するのは固より當然の事である。併し寒地農業は輓近科學の發達しつつある今日に於て其の改良を餘儀なくされているのと, 自然條件が不利と考えられているだけに痛切に, 科學の力が要望されて居り, 寧ろ此の點恵まれた實情にあることは事實である。私共が北海道に住んでいて北海道農業が内地農業を凌駕する時期の到來が案外早いのではないかと考えているのは此の爲である。北海道農業は物理學, 氣象學, 低温科學等の協力を相當歡迎しているが, 之を積極的忙導入する過程に入つたならば其の躍進は火を見るよりも瞭かである。科學導入の農業は恐らく北海道農業が内地農業よりも一足先に完成するであろう。農業は現在の段階に於て一鷹は完成の域に達していると考えられている。之は農學から観た見方である。今後の進歩は徐々で一應は行詰つたとも云える。而も農業にはなお著しい豊凶があり, 不時の災厄も兔れ難い。残され左改良進歩は他の科學によつて未知の世界を開拓する外にはあるまい。人爲的に天氣を變える事だつて全く不可能とは云い切れない今日, 農業の凶作を人工で防ぐことだつて決して不可能だとは思えない。堂々たる農業技術者が技術の權威を誇り乍多も自然的災厄に對しては極めて卑屈であり, 斷念的なのは斯の方面の知識に乏しく, 飴りにも自然の力を恐れ過ぎ敬遠し過ぎている事に基因していると思う。茲に學問の分科制度の缺陥が見られる。私は寒地農業の諸問題の解決には先す離れ過ぎている物理學, 氣象學, 工學, 化學等の農業えの接近を張く強調したいのである。農象以外の科學者は農業を知らないという理由の下に農業えの協力を喜ばない風があるが, 我々は一般の學者に農業を知つて貰わないでも協力を受けたや問題が澤山ある。夫々專門の學者の助言や應用に對する僅かの指示が如何に大きい効果を實際に齎すか想像以上で, 寒地農業の諸問題は實に之等諸學者の支援に期待する處の多いものである。以下殆ど項目に止まるかも知れないが, 記して各位の御批判と御認識を得たいものと考える。