著者
田辺 一夫
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
1999-12-24

近年,送電線の高電圧化・大型化にともない,その計画・設計・運用に際しては,環境問題に対する充分な配慮が必要となってきている。交流送電線の電線からはコロナ放電が発生することがあるが,この放電に起因する環境問題にコロナ騒音がある。コロナ騒音には約500Hzから20kHz程度までの可聴周波数成分を有する不規則性の騒音成分(ランダム騒音)と電源周波数とその偶数倍の周波数の純音成分とがある。この純音成分のうち,通常,電源周波数の2倍の周波数成分(日本の西地域では120Hz,東地域では100Hz)の騒音レベルが大きく,これをコロナハム音という。このコロナ騒音はUHV交流送電線の電線設計における支配要因とされ,とくにその対環境設計においては極めて重要な要因である。ランダム騒音に関しては,早くから国内外において注目され,その性質は詳細に解明されているが,コロナハム音についての研究成果は散見される程度である。このようにコロナハム音に関する研究成果が少ないのは,定在波の形成,電線表面状態や気象条件等の影響による大幅な発生量の変動のために,その取り扱いが難しかったためと考えられる。しかしながら,コロナハム音は,(1)純音であるため,地表面や建物による反射により空間的に定在波を形成し,騒音レベルが位置によって大きく変わること,(2)自然界にはあまりない音質であること等から人に感知されやすく,環境問題としては,むしろ,ランダム騒音よりも重要度が高い。このため,送電線沿線の環境保全を図るためには送電線下のコロナハム音レベルを的確に予測し,その環境影響を評価した上で電線設計に反映させることが肝要である。このような要請に応えるため,本研究ではコロナハム音に関し,以下の項目について理論的実験的検討を行ってきた。すなわち,(1)発生状況,(2)音場分布,(3)騒音レベル予測法,(4)低減対策である。まず,コロナハム音の発生状況について,UHVコロナケージならびに実規模試験線等により実験的検討を行った。これより,コロナハム音の発生状況について考察を加え,次の諸点を明らかにした。(1)発生量は導体方式,電圧,ならびに降雨強度等の気象条件に大きく影響される。(2)電線表面のエージングの進行によって発生量は大幅に低減するが,風騒音対策用のスパイラル線の取り付けば発生量を大幅に増大させる 次に・コロナハム音の音場分布について実験的解析を行った。まず,平地における音場分布の空間的な統計的性質について調べた。コロナハム音は送電線下に複雑な定在波を形成する。したがって,線下のコロナハム音を評価するには音場分布の空間的な統計的性質を把握することが重要である。実規模試験線によるコロナハム音レベルの測定結果から得られる統計的分布とランダムウォークモデル(各相から発生するコロナハム音はランダムに加算されるとするモデル)によるシミュレーション結果はよく一致し,コロナハム音レベルの統計的分布についてはこのモデルが適用できることを明らかにした。このランダムウォークモデルによって,送電線の任意の相数(音源数)における場合のコロナハム音レベルの統計的分布の予測も可能となった。また,コロナハム音の音場分布に対する谷間の影響について調べた。送電線が谷越えをするような場合には,谷を形成する斜面がコロナハム音を反射し,谷間に音が‘篭る’ような現象があることを,代表的な谷間地形であるV字谷ならびにU字谷(中央部に平坦地あり)の模型による実験から初めて明らかにした。V字谷を形成する斜面部の斜面角に対する平均的な音圧レベルの上昇率は0.1dB/度であり,U字谷の場合には平坦地の幅にもよるが斜面部の斜面角が約30度を超えると音が篭ることが分かった。さらに,音場分布をシミュレートするためのアルゴリズムを新たに開発した。本手法によりV字谷ならびにU平谷の場合について音場分布を求めた。シミュレーション結果と実験結果とを比較すると,斜面角に対する音圧レベルの変化や音圧レベルの上昇値などにつき,よい一致が得られた。これらの解析結果をもとに,コロナハム音の予測法を開発した。送電線下のコロナハム音レベルは,時間的にも空間的にも変動する。したがって,送電線下のコロナハム音レベルを評価するには‘時空間平均値(時空間にわたる平均値)’を用いることが実際的である。降雨時に発生するコロナハム音について,UHVコロナケージと実規模試験線による試験データから,この時空間平均値を計算する予測法を新たに開発した。本予測法は導体方式,送電電圧,降雨強度,ならびにスパイラル線の有無を考慮できる比較的簡単な実験式からなり,送電線の電線設計において容易に使用でき,実用的であることが特徴である。本研究の結果を総合することにより,コロナハム音と風騒音の協調低減対策を考案した。実規模試験線による長期連続試験から,各相電線の素導体配列の非対称化と添線の付加によりコロナハム音を低減できることを実証し,あわせてこれらが実際の送電線に適用できることを明らかにした。以上,本研究の成果により,(1)これまで不明であったコロナハム音の諸特性が明らかとなった。(2)実用性の高いコロナハム音レベルの予測が可能となった。(3)コロナハム音の低減対策の実用性を実規模試験により確認した。これらの成果は,すでにわが国初のUHV送電線の設計に活用されている。また,将来の新設送電線の計画・設計・運用に際し有用であると考える。
著者
田辺 一夫
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌) (ISSN:03854213)
巻号頁・発行日
vol.117, no.8, pp.1173-1180, 1997-07-20 (Released:2008-12-19)
参考文献数
9

The audible noise which is produced by corona discharge from transmission line conductors is composed of two major components, namely “hum noise” and “random noise”. Hum noise has a frequency of twice the power line frequency and is generated primarily in rain, fog, and highly humid environments. It is one of the major factors affecting conductor design of transmission lines for voltages above 500kV and it is very important to predict level of hum noise near transmission lines. In this paper, through comparison between measured values in the UHV Akagi test line and that using corona cage, an experimental prediction method of hum noise in rain condition is proposed.