- 著者
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田辺 尚雄
- 出版者
- The Society for Research in Asiatic Music (Toyo Ongaku Gakkai, TOG)
- 雑誌
- 東洋音楽研究 (ISSN:00393851)
- 巻号頁・発行日
- vol.1954, no.12, pp.270-270, 1954
爾来声明の旋律は仏家の頗る重視する所で、門外漢の容易に近寄り難いものとされて居るので、之を洋式五線譜に記して普及せしめるなどと云うことは思ひも寄らなかつた。然るに大正年間に東京芝増上寺内安養院の千葉満定師は深く之を惜み、一般希望者に対し常に声明の講習を行って居たが、苦辛の末之を洋式五線譜に移し、大正十三年九月に「礼讃声明譜」として一冊の秩入折本として売出した。出版所は浄土教報社である。之れには千葉氏の他に津田徳成、堀井慶雅の両師も其編纂に参加し、之を宮内省楽師東儀俊鶉氏に校閲を依頼してある。之は凡て浄土宗声明であるが、余りに西洋的な考へに捉はれ過ぎて居て、無理に四拍子に納めようとしてあるのは声明の実体に遠ざかつて居る。寧ろグレゴリオ聖歌式に拍子を切らずに置いた方がよいのではないかと思う。然し兎に角卒先して難解の声明を五線譜にした功績は賞すべきである。