著者
町 雅史 萩原 礼紀 唐牛 大吾
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.17, 2008

【はじめに】超高齢社会となった本邦は、変形性膝関節症(以下膝OA)の患者も増加する傾向にあり、その治療法の一つとして人工膝関節全置換術(以下TKA)が選択され件数が増加している。当院整形外科のTKAの手術件数は3000関節を超えているが、90歳以上の手術患者は比較的稀である。本症例は心疾患や腎不全を合併した超高齢であったが、両側同時人工膝単顆置換術(以下Bil UKA)を施行し、その後順調に経過し22病日で自宅退院となった一症例を経験したので、ここに報告する。<BR>【症例紹介】症例:93歳女性、身長143cm、体重41kg、BMI 20 診断名:両側膝OA 主訴:両側の膝関節痛、歩行困難、ADL動作困難 既往歴:白内障、慢性腎不全(Stage2)、大動脈弁狭窄症(中等症) 現病歴:昭和63年頃より特に誘引なく両側膝痛が出現、近医にて保存的加療。平成19年9月14日の入院時に、術前検査にて大動脈弁狭窄、慢性腎不全を認め手術延期となり一時退院した。同年11月14日に再入院し、同月21日にBil UKAを施行した。 手術情報:セメントUKA、使用機種はOxford Phase3(BIOMET社製)、アプローチ方法は皮切5cmの内側最小侵襲(以下内側MIS)、手術時間は2時間45分、出血量は術中20cc、術後100ccであった。<BR>【理学療法評価(術前/退院時)】ROM‐t:膝関節屈曲右130°/130°左130°/120°、伸展右-10°/0°、左-15°/-5° MMT:膝関節屈曲右4/4左4/4、伸展右3/3左3/3 疼痛:両側内側裂隙の動作時痛両側ともNRS5/0、創部痛NRS右10/1左10/1 10m歩行テスト:平均時間13.8秒/13.6秒、歩数21歩/22歩 ADL(BIにて):90点/100点 OA grade:右4左4 FTA:右188°/175°、左188°/175° JOA:右65/85点、左65/85点<BR>【経過及び治療プログラム】術前にオリエンテーション、初期評価、動作指導を行った。3病日より車椅子乗車、関節可動域訓練を行い、5病日より訓練室にて関節可動域訓練、筋力増強訓練、平行棒内立位・歩行練習を開始した。6病日にサークル歩行を開始し、9病日にT字杖歩行を開始した。10病日より階段昇降を開始した。19病日にノロウィルス疑いのため一時中止、その後床上動作・ADL指導を経て、22病日に自宅退院となった。治療法は当科TKA術後プロトコルを用いた。40分2単位を20回実施した。<BR>【考察】本症例は93歳という超高齢において、他のTKA患者と遜色無く22病日という期間で後療法を順調に進めることが出来た。それは当科プロトコルに基づき後療法を進め、患者自身にもセルフケアの励行を徹底し疼痛コントロールを良好に出来た事が成因であると推察された。本症例の治療経験から、厳重なリスク管理の下に適切な運動負荷をかけ、他職種との連絡を密にし、術後早期に疼痛自制内で可及的に歩行訓練を行い、活動量を維持向上させることが重要であると考察された。今後も更なる症例集積と検討が必要であると思われる。