著者
町田 千代子 小島 晶子 町田 泰則
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

植物の重要な器官の一つである葉の発生分化の制御機構を解明することは、植物の形づくりとその多様化の仕組みを理解する上で極めて重要である。葉は、扁平であり、葉身の中央にある太い中肋を中心として左右相称である。本研究は、このような特徴をもつ葉状器官の左右相称的発生分化の分子機構を解明することを目的とした。そのために、シロイヌナズナの葉の左右相称的形成に異常を示すasymmetric leaves1(as1)とasymmetric leaves2(as2)変異体の分子遺伝学的解析を行った。すでに、我々は、AS1、AS2は、葉の分化過程において、幹細胞の維持に関わると考えられているホメオボックス遺伝子KNAT1,KNAT2,KNAT6の発現を葉で抑制することを明かにし、完全な中肋の分化に必須であり、左右の協調的細胞分裂をコントロールする機能をもつ可能性を示唆した(Semiarti et al.,2001)。さらに、AS2遺伝子をクローニングした結果、AS2遺伝子は、cysteineに富む特徴的な配列(C-motifと命名)とLeucine zipper様配列をもつ新奇なタンパク質をコードし、これらの配列を含む約100アミノ酸の領域は植物で広く保存されていた(AS2ドメインと命名)。また、AS2ドメインをもつ新奇なタンパク質ファミリーをAS2ファミリーと命名した(Iwakawa et al.,2002)。一方、AS1はMybドメインをもつ転写因子をコードしていることが報告されている。さらに、我々は、遺伝学的解析結果からAS1、AS2が同じ経路で機能していること、また、in vitroではAS1、AS2タンパク質が会合しているという結果を得た。このように、AS1、AS2が葉状器官の発生の初期過程で共同して機能し、葉の細胞を分化状態に保つことが、左右相称的で扁平な葉の形成において重要であると考えられる。