著者
白井 みち代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.88-95, 2019-02-15 (Released:2019-02-26)
参考文献数
29

目的 高齢者の健康は,精神的健康を含め健康を多面的に捉えることが重要であり,今後の介護予防は,老化をポジティブに捉え健康促進していく必要がある。本研究は,要介護リスクとポジティブ思考の関連を明確にするため,地域在住の75歳高齢者における生活機能評価により判定された要介護リスク者と健常者のポジティブ思考を評価することを目的とした。方法 A市の平成27年度(2016)に75歳となった高齢者593人を対象者とし,自記式質問紙調査による郵送調査を行った。前期調査はA市の実態把握調査で,有効回答者数は141人,後期調査の有効回答者数は178人であった。ゆえに,分析対象者は319人とした。分析方法は,基本チェックリストにより,「要介護リスク群」と「健常群」に分け,ポジティブ思考と要介護リスクの関連についてポジティブ思考の構成要素得点を比較検討した。検討では,2群間の連続量の比較に,正規分布とみなされる尺度についてはt検定,偏りのある尺度はMann-WhitneyのU検定を用い,離散量の比較にはχ2検定を用いて行った。要介護リスク判定におけるポジティブ思考の各要素の程度を評価するため,判別分析を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。結果 健常群と要介護リスク群の比較で有意差のあったポジティブ思考の構成要素は,生活満足度K,改訂PGCモラールスケール,ソーシャルネットワーク・スケール,社会参加,自己ネガティブ信念,状態自尊感情であった。判別分析の結果,要介護リスク判別に寄与していた主な変数は自己ネガティブ信念(標準判別係数−0.550),生活満足度K(標準判別係数0.346),自己保存(標準判別係数−0.333)であった。また,他者ネガティブ信念を除くすべてのポジティブ思考の構成要素は,「うつ傾向」と相関していた。結論 要介護リスク者は自己をネガティブにとらえている傾向があり,社会関係が希薄で生活満足度やモラール,自尊感情が低い傾向を示した。とくに,「自己ネガティブ信念」,「生活満足度」は重要な要素であることが示唆された。今後は,ポジティブ思考の構成要素を再考し,要介護リスクとの関連を明確にしていく必要がある。