著者
黒住 明正 赤松 由崇 白木 篤 中島 啓一朗 佐伯 正則 西川 悟郎 原 哲也 皆木 省吾
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.260-266, 2010-10-10 (Released:2010-10-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

目的:阪神・淡路大震災において被災者の一部は,地震による家屋の倒壊により避難時に義歯を放置・紛失するという状態に陥った.復興のさなか,簡便で効率的な義歯製作法が求められたので,われわれが阪神・淡路大震災において実施した大規模災害時における有床義歯製作の考え方とその製作方法について報告する.材料と方法:通法に従い口腔内のアルジネート印象を採得し,印象用石膏により製作した作業用模型上にて基礎床を作る.上顎 6前歯・下顎 6前歯が一塊となった人工歯と 4臼歯が一塊となったシェル臼歯を口腔内で基礎床と常温重合レジンにより位置決めし,両者の間隙に粉液比を低く低粘稠度に混和した常温重合レジンを流し込み研磨面形態を製作する.最後に粘膜面に暫間軟質裏装材を適応する.考察:本義歯製作方法は,審美性にやや劣り永続的使用に適さないという欠点を有する.しかし,通法と比較して大幅に作業時間が短縮し,復興後のかかりつけ歯科医のコンセプトに従った補綴装置の設計・製作を阻害しないという点を有しており,災害時の歯科救援活動に貢献するものと考える.結論:本義歯製作方法は,大規模災害時において簡便かつ効率的な義歯製作を可能とするものであり,半年程度で現地歯科医療機関の一次的な復興が望める被災地においては特に有効であると考えられる.