著者
秋葉 陽介 渡邉 恵 峯 篤史 池戸 泉美 二川 浩樹
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.327-339, 2016 (Released:2016-11-09)
参考文献数
32
被引用文献数
4 2

歯科金属アレルギーは口腔内の金属補綴修復物に含まれる金属元素をアレルゲンとしてアレルギー反応が感作,惹起され,局所性,全身性の接触皮膚炎を病態とする疾患として理解されている.歯科金属アレルギーと関連疾患に対する,検査,診査,診断,治療法などに関する診療ガイドラインは,現在のところ策定されていない.本総説は歯科金属アレルギー診療ガイドライン策定に必要な臨床研究,基礎研究や,歯科金属アレルギーに関する臨床について,現状と展望を解説するものである.
著者
平野 浩彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.249-254, 2014 (Released:2014-08-12)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

日本の認知症の数は465万人との報告(厚労省研究班2013年)がなされ,“身近な病気:common disease”の一つになっている.歯科医療従事者も認知症を理解し,予知性のある歯科治療,口腔衛生管理を継続的に認知症高齢者に提供することが,超高齢社会での歯科に求められている最も重要なミッションの一つと考える.以上を踏まえ,本稿では認知症高齢者の歯科治療立案プロセスに必要な視点を明確にする目的で,アルツハイマー型認知症に代表される変性性認知症を中心に,その進行とともに変遷する口腔の治療・ケアニーズについて調査知見等を中心に解説した.
著者
北迫 勇一
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.142-147, 2015 (Released:2015-04-18)
参考文献数
11

近年,わが国においても多くの酸性飲食物が国民の食生活習慣に取り入れられる様になり,酸蝕症の問題は臨床上無視出来ない状況にある.成人を対象とした疫学調査では, 酸蝕症の罹患状況は26.1%であった.酸蝕症の臨床対応は,審美的または機能的な損害や不快症状等病的症状を伴わず,生理的な症状にとどまる場合には原則予防処置またはモニタリングを行い,高度象牙質露出に伴う冷水痛または咬合痛や,歯の破折を伴う実質欠損を有する場合には,MI修復の観点からコンポジットレジン修復を行う.
著者
窪木 拓男 前川 賢治
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.117-125, 2021 (Released:2021-04-29)
参考文献数
32

われわれ歯科医は補綴治療を毎日患者に施しているが,その治療がどのような効果を患者に及ぼしているかを十分認識していない.たとえば,自立した地域在住高齢者においては,補綴治療の主目的は,口腔関連QOLの向上に加えて,介護予防,フレイル予防,認知機能低下予防であり,補綴治療による口腔機能の維持は多様な食物や栄養素を摂取するという観点から重要な意味があると言われている.本論説では,近年発表された質の高いシステマティックレビューと原著論文を精読し,地域在住高齢者においては,現在歯数が多いほど,生命予後が良好であること,また,現在歯数よりも機能歯数の方が生命予後に強く関連するという日本補綴歯科学会と東京都健康長寿医療センターの共同研究結果を紹介した.一方,日常生活動作がまだまだ保たれている前期要支援・要介護高齢者においては,歯列欠損の修復に加えて,栄養摂取強化と広義の摂食嚥下リハビリテーションが重要な意味を持つ.また,日常生活動作が著しく低下する後期要介護高齢者においては,食環境や食形態の調整,栄養補助食品の利用,多様な栄養摂取ルートの活用などが必要になる.これらの臨床エビデンスをライフステージに合わせて読み解くことにより,われわれ補綴歯科医の医学的,社会的な責務が,どのライフステージにおいても甚大であることを訴えたい.
著者
末瀬 一彦 橘高 又八郎 辻 功 澤村 直明
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.45-55, 2019 (Released:2019-01-26)
参考文献数
32
被引用文献数
3 3

目的:平成26年4月にCAD/CAM冠が先進医療として医療保険に導入され,平成28年9月には全国の歯科診療所の59.0%が施設基準の届け出を提出するようになった.そこで,CAD/CAM冠を成功させ,大臼歯や前歯部への適用拡大を図る目的で,CAD/CAM冠の使用状況ならびに予後について広範囲の調査を行った.方法:全国の歯科診療所を対象にCAD/CAM冠に対するアンケート調査を実施した.調査の回収にあたっては歯科技工所の協力を得て,全国約2,000カ所の歯科診療所を対象に調査を実施した.調査内容は,CAD/CAM冠適用の実態,CAD/CAM冠の脱離と破折,CAD/CAM冠の将来展望,患者評価などである.結果:CAD/CAM冠の脱離率は8.0%で,前回調査よりわずかに減少し,脱離までの期間は,装着後2週間以内,また破折率は4.3%を占め,前回調査よりわずかに増加した.破折までの期間は2週間以降1カ月以内が多かった.装着前の前処理としてプライマー処理は88.5%の歯科医師が行っていたが,サンドブラスト処理は38.9%であった.また脱離に関しては使用したレジンブロックおよび接着性レジンセメントの種類において有意差は認められなかった.さらに患者評価は極めて高く,98.9%が満足している回答であった.結論:医療保険におけるCAD/CAM冠の適用頻度は増加しているが,今後さらに大臼歯部や前歯部への適用拡大においては材料強度,色調再現性を高めるとともに,脱離や破折に対する配慮は極めて重要である.
著者
上田 貴之 釘宮 嘉浩 堀部 耕広
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.129-134, 2020 (Released:2020-05-02)
参考文献数
30

高齢者の口腔機能が低下した様子を示す用語として,オーラルフレイルと口腔機能低下症が現在広く用いられている.オーラルフレイルは,口腔機能が低下している状態を表しているのに対して,口腔機能低下症は疾患名である.これらの用語が示すような口腔機能の低下は、認知症の発症および認知機能の低下と関連すると報告されている.認知症の治療方法は未だ確立されていないことから,認知症の前駆状態である軽度認知障害の状態から口腔機能を維持向上させることが重要であると考えられている.本稿では,認知機能と口腔機能との関連について,当講座の研究成果を含めて,近年の報告を紹介したい.
著者
秋山 謙太郎 古味 佳子 窪木 拓男
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.346-353, 2016 (Released:2016-11-09)
参考文献数
69

間葉系幹細胞は,様々な体細胞に分化できる多分化能を有している事が知られており,その性質を応用した組織再生療法が長年に渡り,研究・臨床応用されて来た.一方,間葉系幹細胞の持つ免疫調節機能が着目されるようになり,様々な全身性免疫疾患に対する間葉系幹細胞移植療法の治療効果が報告されるようになった.このように間葉系幹細胞の機能は多岐に渡るが,その機能自体や制御メカニズムは未だ不明な点が多く,治療効果が不確実な場合もある.本稿では間葉系幹細胞の持つ機能のうち,とりわけ免疫調節機能の発現と治療効果が得られるメカニズムについて我々の研究データとともに紹介する.
著者
猪原 健
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.195-201, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
18

超高齢社会の進展に伴い,介護を必要とする者かつ口腔機能の低下した者の増加が予測されている.このような患者に対して,通院できないから仕方がなく訪問する,のではなく,生活や人生をサポートするために敢えて積極的に歯科訪問診療を実施し,補綴診療を行う,という考え方が必要となってきている.患者の看取りへの道のりは,大きく3つに分かれるとされているが,歯科として関わりは,看取りへの短期集中,補綴とリハビリ支援,長く支えて義歯使用中止の判断まで実施,など,それぞれ大きく異なり,状況を把握したうえでの適切な判断が必要となる.またその際は,訪問看護師をはじめとする多職種との連携が必要不可欠である.
著者
笛木 賢治 大久保 力廣 谷田部 優 荒川 一郎 有田 正博 井野 智 金森 敏和 河相 安彦 川良 美佐雄 小見山 道 鈴木 哲也 永田 和裕 細木 真紀 鱒見 進一 山内 六男 會田 英紀 小野 高裕 近藤 尚知 玉置 勝司 松香 芳三 塚崎 弘明 藤澤 政紀 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.387-408, 2013 (Released:2013-11-14)
参考文献数
66
被引用文献数
4 6

本ポジションペーパーは,義歯床用の熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の呼称と定義を提案し,臨床適用への指針を示すことを目的とした.(公社)日本補綴歯科学会会員から,熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を有するエキスパートパネル14名を選出した.パネル会議で検討した結果,「義歯の維持部を義歯床用の樹脂を用いて製作したパーシャルデンチャーの総称」をノンメタルクラスプデンチャー(non-metal clasp denture)と呼称することとした.ノンメタルクラスプデンチャーは,樹脂と人工歯のみで構成される剛性のない義歯と,金属構造を有する剛性のある義歯とに区分される.剛性のないノンメタルクラスプデンチャーは,金属アレルギー症例などの特別な症例を除き,現在の補綴臨床の原則に照らし合わせ最終義歯として推奨できない.剛性のあるノンメタルクラスプデンチャーは,審美領域にメタルクラスプが走行することを患者が受け入れられない場合に推奨できる.ノンメタルクラスプデンチャーの設計は,原則的にメタルクラスプを用いた部分床義歯の設計に則したものでなければならない.熱可塑性樹脂の物性は材料によって大きく異なるため,各材料の特性を考慮して臨床適用する必要がある.全般的な特徴としては,アクリルレジンよりも変色,面荒れしやすく,材料によっては破折しやすい.現時点では,樹脂の理工学的性質と義歯の治療効果と術後経過に関する研究が不十分であり,今後これらの知見が集積され本ポジションペーパーの改訂とガイドラインの策定が望まれる.
著者
菊谷 武
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.126-131, 2016 (Released:2016-05-26)
参考文献数
18

国民の健康意識の増進により多くの歯を持つ高齢者が増加し,咬合支持を失っている者の数は減少している.一方で,障害を抱えながら地域で暮らす高齢者の多くは口腔器官の運動障害を有し,その数は増加の一途にある.咀嚼器官の運動障害に伴う咀嚼障害は,その原因によっては改善が不可能であるため,咀嚼機能に合わせた食形態の指導が窒息予防や低栄養の予防の観点から重要である.しかし,これまでの咀嚼機能評価は食形態を推し量ることを目的としてきたものはなく,機能に合致した適切な食形態を提示することが困難であった.本稿では,著者が試みている口腔移送試験や咀嚼運動の外部観察評価による咀嚼機能評価を紹介し,さらに,食形態を地域で共有する必要性を述べた.
著者
玉置 勝司 石垣 尚一 小川 匠 尾口 仁志 加藤 隆史 菅沼 岳史 島田 淳 貞森 紳丞 築山 能大 西川 洋二 鱒見 進一 山口 泰彦 會田 英紀 小野 高裕 近藤 尚知 塚崎 弘明 笛木 賢治 藤澤 政紀 松香 芳三 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.369-386, 2013 (Released:2013-11-14)
参考文献数
22
被引用文献数
4 3

難症例の1つに咬み合わせ異常感や違和感があり,その訴えに対応する客観的所見が確認できない症例に遭遇することがある.通常,咬合紙,ワックス,シリコーンなどを用いて確認はするものの,咬合接触状態に特に異常は見つからない.さらに,患者の咬合に関する執拗な訴えに対して歯科医師が患者に問題の部位を確認してもらい,患者の指示により咬合調整を行ってしまうといった患者の感覚主導型治療に陥ってしまうことがある.その結果,患者の訴えは改善しないばかりか,逆に悪化することもさえもある.そして,患者と歯科医師の信頼関係が壊れ,思わぬ方向に陥ってしまうことも珍しくない. このような患者が訴える咬合に関する違和感に対して,社団法人日本補綴歯科学会,診療ガイドライン委員会において,平成23年度「咬合感覚異常(症)」に関する診療ガイドラインの策定が検討された.診療ガイドラインの策定に際し,委員会の作成パネルによるガイドライン策定を試みたが,咬合感覚異常(症)に関する十分に質の高い論文は少なく,診療ガイドラインの作成には至らなかった.そこで,本委員会のパネルで協議した結果,「咬合感覚異常(症)」に対する日本補綴歯科学会としてのコンセンサス・ミーティングを開催して本疾患の適切な呼称の検討を行った.また事前のアンケート調査結果から,このような病態を「咬合違和感症候群(occlusal discomfort syndrome)」とした. 今回のポジションペーパーは,今後の診療ガイドラインの作成とそれに対する研究活動の方向性を示す目的で,過去の文献と咬合違和感症候群患者のこれまでの歯科治療の経過や現在の状況について実施した多施設による患者の調査結果をもとに作成された.
著者
峯 篤史 松本 真理子 伴 晋太朗 矢谷 博文
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.115-123, 2022 (Released:2022-04-27)
参考文献数
18

CAD/CAMレジン冠が保険導入されて8年をむかえようとしている.この間,本治療法の向上のために日本補綴歯科学会会員は,基礎研究データおよび臨床エビデンスを蓄積してきた.本稿ではその成果である「現在推奨されている接着技法」,「全臨床アウトカム」をまとめ,それらの最新情報から導かれる「具体的な臨床術式」および「患者説明のあるべき姿」を提案する.CAD/CAMレジン冠の治療を成功させる要素は多岐にわたり,歯科医はこれらを総合的にマネージメントする必要がある.さらに,新規メタルフリー治療として日本からの発信を達成するために刷新すべきドグマや臨産官学民連携について吟味したい.
著者
伴 清治
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.209-215, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
16

クラウンブリッジにおけるデジタルデンティストリーの活用のためには,歯科用CAD/CAMシステムにおけるマテリアル選択が必須である.しかし,歯科用CAD/CAMシステムは材料と加工法の組み合わせによりきわめて多種多様なシステムが活用されており,さらにシステムは年々多様化し,使用可能な材料が増える傾向にある.したがって,マテリアル選択には各方法・材料の基本的知識を,最新情報を元に把握しておく必要がある.本報では,歯科用CAD/CAMシステムで使用される材料の特性について,最適材料の選択に役立つように,セラミックス系材料,金属系材料,レジン系材料の3つの素材に大別して,解説する.
著者
新谷 明一 三浦 賞子 小泉 寛恭 疋田 一洋 峯 篤史
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-15, 2017 (Released:2017-02-21)
参考文献数
60
被引用文献数
5 6

小臼歯の全部被覆冠として保険収載されたCAD/CAM冠の使用率は,年々増加し続けている.一方で,CAD/CAM冠の脱落などに代表されるトラブル報告も多くなってきている.CAD/CAM冠は,従来の歯冠補綴装置とは異なった製作方法や材料を使用しており,支台歯形態や接着方法に独自の配慮が必要である.また,多くの脱落が初期に生じているということは,従来の全部被覆冠からは考えられない原因の存在も推測される.本稿では,CAD/CAM冠に発生したトラブルのリスク因子を明らかにし,それに対応できるよう,支台歯形態,CAD/CAM冠用レジンブロックの特徴,適切な接着手順および術後管理について考察を行う.
著者
眞坂 信夫
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.20-25, 2014 (Released:2014-01-31)
参考文献数
10

近年,メタルコアの応力集中が原因と考えられる垂直破折歯根が多くなった.2005年の調査で歯根破折は日本人の抜歯原因の11%を占めると報告されているが,この調査から8年経過した現在はもっと多くなっていると予測される.歯根破折は長期経過後に発症する.現時点でメタルコアの使用を止めたとしても,治療済みのメタルコア築造歯の歯根破折発症でこの数値はまだまだ増え続けるであろう.歯根破折を発症しない支台築造法の確立,破折歯を保存する接着治療法の確立,ならびに,治療が技術的に容易である歯根破折の初期段階を診断する定期検診システムの構築が急務である.
著者
木ノ本 喜史
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.126-131, 2017 (Released:2017-05-30)
参考文献数
19

良好な根管充填が完了した歯であっても歯冠側から根管内に漏洩が生じると,修復前には認めなかった根尖性歯周炎が発症する.この現象はコロナルリーケージと呼ばれており,修復の再治療が必要となる原因の一つである.最終修復までの仮封の期間や支台築造装着までの根管の汚染,修復後の二次う蝕等がコロナルリーケージに影響を及ぼす.根管充填がしっかり達成されていれば,根尖へ感染は波及しないわけではなく,修復後にも根尖に感染が生じる可能性がある.歯内療法においては当然のことであるが,修復処置においても根管の感染を意識した処置が必須である.
著者
新谷 歩
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-11, 2014 (Released:2014-01-31)
参考文献数
14

論文投稿からアクセプトまでのプロセスはEBM 医療が盛んになる近年厳しさを増す一方です.医学雑誌の最高峰であるNew England Journal of Medicine では,年間約5000 本の論文が投稿され,最終関門の統計査読に到達した5%の論文の中から更に20%が統計手法の不備でリジェクトされます1).査読者が何を見ているのかが事前に分かれば,過酷な査読地獄を生きぬくための強力な武器となるのではないでしょうか.British Dental Journal が提供している統計チェックリストを紹介しながら,歯学研究を行う際に留意したい10 個のトピックについて解説します2).
著者
熊谷 直大
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.25-31, 2017 (Released:2017-02-21)
参考文献数
9

米国において歯科補綴の専門医となるためには,歯科医師となった後,3年の専門医養成課程に入学し,卒業しなければならない.養成課程を修了し,歯科補綴専門医となった歯科医師は,一般歯科医(GP)や他科専門医から患者の紹介を受けながら補綴に特化した診療を行う.歯科補綴専門医数は歯科医師総数の約1.8%1)であり,人口における補綴専門診療が必要な患者数によって養成課程の定員が決められている.また,専門医制度の発展を促すため,養成課程を修了した専門医が「ボード」と呼ばれる組織により認定を受け,ボード認定専門医となる制度も存在する.
著者
野川 敏史 高山 芳幸 齋藤 正恭 横山 敦郎
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.170-178, 2015

<b>目的</b>:部分欠損症例において,インプラント支持補綴装置(ISFP)と部分床義歯(RPD)が欠損隣接歯の予後に及ぼす影響を比較・検討することを目的として後ろ向きコホート研究を行った. <br><b>方法</b>:北海道大学病院歯科診療センター義歯補綴科にて,2003年から2011年の間に,ISFPまたはRPDを装着し,補綴治療終了後1年以上経過し,年1回以上のリコールに応じている患者を対象とした.全部床義歯装着者や診療録の不備により不適当と判断したものは除外した.調査項目は,性別,年齢,補綴方法,残存歯数とし,欠損隣接歯では,歯種,根管治療の有無,歯冠補綴・修復の有無,同名対合歯の有無を調べた.エンドポイントは抜歯,および何らかのトラブル(破折,脱離,齲蝕,根尖性歯周炎,辺縁性歯周炎)があった時点としてKaplan-Meier法により生存率,トラブル未発生率を算出した.補綴装置間の比較にはlog-rank検定を用い,有意水準は0.05とした.<br><b>結果</b>:対象患者は501名(ISFP:41名,RPD:460名)であった.欠損隣接歯の5年生存率は,ISFPで97.5%,RPDは90.9%であり有意差は認められなかった(<i>P</i>=0.060).トラブル未発生率は,ISFPで89.3%,RPDは70.5%であり有意差が認められた(<i>P</i>=0.008).<br><b>結論</b>:本研究において,補綴装置の選択が欠損隣接歯の予後に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
江草 宏
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.202-208, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
25

本企画では,“歯周病患者に対する固定性補綴歯科治療”をテーマに,前号掲載された弘岡秀明先生および松井徳雄先生の各論文に代表される治療コンセプトを,それぞれ『スカンジナビア型』および『米国型』と分類し,論考を試みた.「絶対的に必要なこと以上のことは何もするな,しかし,絶対的に必要なことは怠ってはいけない」とのコンセプトに基づくスカンジナビア型治療と,「外科処置により,可能な限りの生理的な骨形態,浅い歯肉溝,付着歯肉の獲得」を治療目標に置く米国型治療との間には,アプローチはまったく異なるものの,目指す共通点も見えてくる.本企画を通じて,“歯周病に対する補綴歯科治療の専門性”を考える一助となれば幸いである.