著者
秋葉 陽介 渡邉 恵 峯 篤史 池戸 泉美 二川 浩樹
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.327-339, 2016 (Released:2016-11-09)
参考文献数
32

歯科金属アレルギーは口腔内の金属補綴修復物に含まれる金属元素をアレルゲンとしてアレルギー反応が感作,惹起され,局所性,全身性の接触皮膚炎を病態とする疾患として理解されている.歯科金属アレルギーと関連疾患に対する,検査,診査,診断,治療法などに関する診療ガイドラインは,現在のところ策定されていない.本総説は歯科金属アレルギー診療ガイドライン策定に必要な臨床研究,基礎研究や,歯科金属アレルギーに関する臨床について,現状と展望を解説するものである.
著者
北迫 勇一
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.142-147, 2015 (Released:2015-04-18)
参考文献数
11

近年,わが国においても多くの酸性飲食物が国民の食生活習慣に取り入れられる様になり,酸蝕症の問題は臨床上無視出来ない状況にある.成人を対象とした疫学調査では, 酸蝕症の罹患状況は26.1%であった.酸蝕症の臨床対応は,審美的または機能的な損害や不快症状等病的症状を伴わず,生理的な症状にとどまる場合には原則予防処置またはモニタリングを行い,高度象牙質露出に伴う冷水痛または咬合痛や,歯の破折を伴う実質欠損を有する場合には,MI修復の観点からコンポジットレジン修復を行う.
著者
菊谷 武
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.126-131, 2016 (Released:2016-05-26)
参考文献数
18

国民の健康意識の増進により多くの歯を持つ高齢者が増加し,咬合支持を失っている者の数は減少している.一方で,障害を抱えながら地域で暮らす高齢者の多くは口腔器官の運動障害を有し,その数は増加の一途にある.咀嚼器官の運動障害に伴う咀嚼障害は,その原因によっては改善が不可能であるため,咀嚼機能に合わせた食形態の指導が窒息予防や低栄養の予防の観点から重要である.しかし,これまでの咀嚼機能評価は食形態を推し量ることを目的としてきたものはなく,機能に合致した適切な食形態を提示することが困難であった.本稿では,著者が試みている口腔移送試験や咀嚼運動の外部観察評価による咀嚼機能評価を紹介し,さらに,食形態を地域で共有する必要性を述べた.
著者
秋山 謙太郎 古味 佳子 窪木 拓男
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.346-353, 2016 (Released:2016-11-09)
参考文献数
69

間葉系幹細胞は,様々な体細胞に分化できる多分化能を有している事が知られており,その性質を応用した組織再生療法が長年に渡り,研究・臨床応用されて来た.一方,間葉系幹細胞の持つ免疫調節機能が着目されるようになり,様々な全身性免疫疾患に対する間葉系幹細胞移植療法の治療効果が報告されるようになった.このように間葉系幹細胞の機能は多岐に渡るが,その機能自体や制御メカニズムは未だ不明な点が多く,治療効果が不確実な場合もある.本稿では間葉系幹細胞の持つ機能のうち,とりわけ免疫調節機能の発現と治療効果が得られるメカニズムについて我々の研究データとともに紹介する.
著者
野川 敏史 高山 芳幸 齋藤 正恭 横山 敦郎
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.170-178, 2015

<b>目的</b>:部分欠損症例において,インプラント支持補綴装置(ISFP)と部分床義歯(RPD)が欠損隣接歯の予後に及ぼす影響を比較・検討することを目的として後ろ向きコホート研究を行った. <br><b>方法</b>:北海道大学病院歯科診療センター義歯補綴科にて,2003年から2011年の間に,ISFPまたはRPDを装着し,補綴治療終了後1年以上経過し,年1回以上のリコールに応じている患者を対象とした.全部床義歯装着者や診療録の不備により不適当と判断したものは除外した.調査項目は,性別,年齢,補綴方法,残存歯数とし,欠損隣接歯では,歯種,根管治療の有無,歯冠補綴・修復の有無,同名対合歯の有無を調べた.エンドポイントは抜歯,および何らかのトラブル(破折,脱離,齲蝕,根尖性歯周炎,辺縁性歯周炎)があった時点としてKaplan-Meier法により生存率,トラブル未発生率を算出した.補綴装置間の比較にはlog-rank検定を用い,有意水準は0.05とした.<br><b>結果</b>:対象患者は501名(ISFP:41名,RPD:460名)であった.欠損隣接歯の5年生存率は,ISFPで97.5%,RPDは90.9%であり有意差は認められなかった(<i>P</i>=0.060).トラブル未発生率は,ISFPで89.3%,RPDは70.5%であり有意差が認められた(<i>P</i>=0.008).<br><b>結論</b>:本研究において,補綴装置の選択が欠損隣接歯の予後に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
笛木 賢治 大久保 力廣 谷田部 優 荒川 一郎 有田 正博 井野 智 金森 敏和 河相 安彦 川良 美佐雄 小見山 道 鈴木 哲也 永田 和裕 細木 真紀 鱒見 進一 山内 六男 會田 英紀 小野 高裕 近藤 尚知 玉置 勝司 松香 芳三 塚崎 弘明 藤澤 政紀 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.387-408, 2013 (Released:2013-11-14)
参考文献数
66
被引用文献数
3 3

本ポジションペーパーは,義歯床用の熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の呼称と定義を提案し,臨床適用への指針を示すことを目的とした.(公社)日本補綴歯科学会会員から,熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を有するエキスパートパネル14名を選出した.パネル会議で検討した結果,「義歯の維持部を義歯床用の樹脂を用いて製作したパーシャルデンチャーの総称」をノンメタルクラスプデンチャー(non-metal clasp denture)と呼称することとした.ノンメタルクラスプデンチャーは,樹脂と人工歯のみで構成される剛性のない義歯と,金属構造を有する剛性のある義歯とに区分される.剛性のないノンメタルクラスプデンチャーは,金属アレルギー症例などの特別な症例を除き,現在の補綴臨床の原則に照らし合わせ最終義歯として推奨できない.剛性のあるノンメタルクラスプデンチャーは,審美領域にメタルクラスプが走行することを患者が受け入れられない場合に推奨できる.ノンメタルクラスプデンチャーの設計は,原則的にメタルクラスプを用いた部分床義歯の設計に則したものでなければならない.熱可塑性樹脂の物性は材料によって大きく異なるため,各材料の特性を考慮して臨床適用する必要がある.全般的な特徴としては,アクリルレジンよりも変色,面荒れしやすく,材料によっては破折しやすい.現時点では,樹脂の理工学的性質と義歯の治療効果と術後経過に関する研究が不十分であり,今後これらの知見が集積され本ポジションペーパーの改訂とガイドラインの策定が望まれる.
著者
平野 浩彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.249-254, 2014 (Released:2014-08-12)
参考文献数
13

日本の認知症の数は465万人との報告(厚労省研究班2013年)がなされ,“身近な病気:common disease”の一つになっている.歯科医療従事者も認知症を理解し,予知性のある歯科治療,口腔衛生管理を継続的に認知症高齢者に提供することが,超高齢社会での歯科に求められている最も重要なミッションの一つと考える.以上を踏まえ,本稿では認知症高齢者の歯科治療立案プロセスに必要な視点を明確にする目的で,アルツハイマー型認知症に代表される変性性認知症を中心に,その進行とともに変遷する口腔の治療・ケアニーズについて調査知見等を中心に解説した.
著者
廣瀬 知二
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 = Annals of Japan Prosthodontic Society (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.272-280, 2013-07-10
参考文献数
50
被引用文献数
1

<b>目的:</b>素材の異なる各種市販ノンクラスプデンチャー材料の特徴を,曲げ特性の面から明らかにする.<br><b>方法:</b>ノンクラスプデンチャー材料(ポリアミド系樹脂:ルシトーンFRS,ポリカーボネート系樹脂:レイニング樹脂,ポリエステル系樹脂:エステショット,アクリル系樹脂:アクリトーン),加熱重合型アクリル樹脂(アクロン)を対象に,成形したままの試験片(乾燥)と30日間水中浸漬試験片(浸漬)の3点曲げ試験を行った.応力-ひずみ曲線を作成し,曲げ強さ,曲げ弾性係数,0.05% 耐力を算出した.得られたデータについて各材料の比較,材料ごとの乾燥と浸漬の比較を行った.<br><b>結果:</b>応力-ひずみ曲線は,アクロンが脆性材料の特徴を示すのに対し,ノンクラスプデンチャー材料はいずれも靱性材料の特徴を示した.曲げ強さはレイニング樹脂を除き,アクロンに比べ有意に小さい値を示した.曲げ弾性係数はいずれのノンクラスプデンチャー材料も,アクロンに比較して有意に小さい値を示した.0.05% 耐力はエステショットが他のノンクラスプデンチャー材料に比較して有意に大きい値を示した.アクリトーンの曲げ強さ,曲げ弾性係数,0.05% 耐力は浸漬が乾燥に比べ有意に小さい値を示した.<br><b>結論:</b>各材料の曲げ特性は素材となる樹脂の性質に基づくことが示唆された.ノンクラスプデンチャーの症例選択,義歯設計には材料の基礎的物性を把握した上での十分な配慮が必要である.
著者
西村 一将 大井 孝 高津 匡樹 服部 佳功 坪井 明人 菊池 雅彦 大森 芳 寶澤 篤 辻 一郎 渡邉 誠
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.126-134, 2011-04-10 (Released:2011-04-21)
参考文献数
39
被引用文献数
1

目的:地域高齢者を対象に,20歯以上の保有と1年間での軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)発現との関連を検討した.方法:70歳以上の地域高齢者に対して心身の総合機能評価を2年にわたり実施し,1年目のベースライン調査時にMCIを認めず,かつ2年目の追跡調査が可能であった557名(女性310名)を分析対象とした.認知機能の評価にはMini-Mental State Examination(MMSE)を用い,スコアが26点以上を正常,25点以下をMCIとした.現在歯数については歯冠を残す20本以上の歯の有無について調査した.MCI発現との関連が疑われるその他の項目として,年齢,Body Mass Index,脳卒中既往,心疾患既往,高血圧,糖尿病,喫煙,飲酒,抑うつ傾向,学歴,配偶者の有無,ソーシャルサポートの状態,身体活動度,主観的健康感について調査した.結果:多重ロジスティック回帰分析を用いてベースライン調査から1年後のMCI発現の規定因子を検索した結果,男性において20歯以上の保有が,他の因子と独立して認知機能低下発現に対し有意なオッズ比の低値(オッズ比:0.19,95%信頼区間:0.04-0.82)を示した.結論:現在歯を20歯以上保有することは,咀嚼機能の維持のみならず,高齢期における認知機能の維持においても優位性を持つ可能性が示唆された.
著者
金澤 学
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 = Annals of Japan Prosthodontic Society (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.126-129, 2013-04-10
参考文献数
6
被引用文献数
1

現在の全部床義歯製作法には,臨床・技工操作ともに非常に煩雑で熟練した手技を要する.この問題点を解決するために,われわれはCAD/CAM技術を応用した全部床義歯製作法を考案した.この手法では,改良した旧義歯あるいはパイロットデンチャーをCTによりスキャンし,粘膜面と顎間関係を三次元データとしてPCに取り込む.CADソフトウェア上にて,新しい義歯をデザインした後,顔貌シミュレーションにより新義歯装着時の顔貌の確認を行う.必要があれば,Rapid Prototypingを用いて試適用義歯を作製し,義歯試適を行う.これにより,問題がなければ,マシニングセンタによりアクリルブロックを義歯床形態に切削加工し,人工歯を接着し最終義歯を完成する.
著者
眞坂 信夫
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.20-25, 2014 (Released:2014-01-31)
参考文献数
10

近年,メタルコアの応力集中が原因と考えられる垂直破折歯根が多くなった.2005年の調査で歯根破折は日本人の抜歯原因の11%を占めると報告されているが,この調査から8年経過した現在はもっと多くなっていると予測される.歯根破折は長期経過後に発症する.現時点でメタルコアの使用を止めたとしても,治療済みのメタルコア築造歯の歯根破折発症でこの数値はまだまだ増え続けるであろう.歯根破折を発症しない支台築造法の確立,破折歯を保存する接着治療法の確立,ならびに,治療が技術的に容易である歯根破折の初期段階を診断する定期検診システムの構築が急務である.
著者
田中 晋平 高場 雅之 深澤 翔太 渡邊 理平 夏堀 礼二 近藤 尚知 馬場 一美
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.23-31, 2018 (Released:2018-05-13)
参考文献数
9

インプラント治療はCT(Computed Tomography)のDICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)データがデジタルデータであることから,デジタル・デンティストリーと親和性が高く,比較的早期からデジタル技術が導入されてきた.シミュレーションソフトウェアやガイドサージャリーやナビゲーションシステムによる安全な手術などはもとより,今日ではCAD/CAMを用いたインプラント上部構造が広く普及した. 光学印象の普及はデジタルワークフローの枠組みを技工のみでなく,臨床手技にまで拡大するもので,すでに一部のシステムにおいては,光学印象からインプラント上部構造製作までが系統的に整備され,フルデジタルワークフローによるトップダウントリートメントは,完成形に近づいたといえよう. 一方で,光学印象に関連したデジタルワークフローは従来のワークフローと比較して柔軟性に劣る,従来のワークフローで得られる最高レベルの精度が担保されていない,など幾つかの制限があることも事実である.本稿では,インプラント治療における光学印象の活用の変遷と現状を提示するとともに,今後の展開について,現在直面している技術的限界に焦点を当てながら考察する.
著者
青崎 有美
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.238-247, 2011-07-10 (Released:2011-09-01)
参考文献数
49
被引用文献数
1

目的:広く用いられているガラスファイバーポストについて,口腔内での機能を想定した接着耐久性試験を行い,接着耐久性のある最適な表面処理法を明らかにする.方法:表面処理なしと各種表面処理;シラン処理(機能性モノマーなし),有機溶媒+シラン処理(機能性モノマーなし),シラン処理(機能性モノマーあり),酸処理+シラン処理(機能性モノマーあり),酸処理+シラン処理を含むボンディング剤の 6処理について検討した.処理を行ったポストとデュアルキュア型支台築造用コンポジットレジンとの複合体試料を製作し,大気中・水中浸漬・繰り返し荷重負荷(水中)の3種類の実験条件について微小引張り試験を行い,接着強さの測定および破断様相を検討した.結果:未処理を含む 6種類の表面処理のうち,最も厳しい実験条件である水中での繰り返し荷重試験後に最も高い接着強さを示したのは,酸処理後に機能性モノマーを含んだシランカップリング剤で処理した条件であった.ただし,機能性モノマーを含まないシランカップリング剤であっても,有機溶媒による前処理を行うことによって,接着強さおよび耐久性は著しく向上した.結論:未処理を含む 6種類の表面処理条件のうち 4種類において,接着強さが向上した.そのうち最も適切な表面処理法は,酸処理後に機能性モノマーを含むシランカップリング剤で処理する方法であった.
著者
谷口 尚 隅田 由香
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.333-342, 2014

顎補綴とは,先天奇形,腫瘍,外傷,嚢胞,炎症などを原疾患とし,外科的切除などにより顎口腔領域に後遺した顎骨・舌などの欠損を対象に,補綴装置を用いて修復し,失われた咀嚼・嚥下,発音,審美性などの機能を原状回復することである.こうした顎補綴症例では機能障害が一般補綴症例に比べ重篤で,精神・心理的苦痛をも惹起する.顎補綴によって目指す機能回復のうち,構音障害や発声障害といった音声障害に対する機能回復は,患者が社会とのコミュニケーション手段である「Speech」を円滑に保持するための要件である.本稿では顎補綴と「Speech」評価について述べる.
著者
川西 克弥 佐々木 みづほ 豊下 祥史 會田 英紀 越野 寿
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.358-363, 2016

<p> 咬合・咀嚼機能と高次脳機能との間には密接な関連があり,学習・記憶機能の発達やその維持に咬合・咀嚼が有効であることが多数報告されている.一方,脳血管障害患者では身体的機能や高次脳機能などの障害のみならず,円滑な摂食嚥下運動が妨げられ,咀嚼運動による末梢器官から脳への刺激低下は,後遺障害からの回復過程に何らかの影響を及ぼすと考えられる.臨床現場では,後遺障害からの改善に早期の経口摂食の有効性が報告され,咬合・咀嚼機能の有用性は大いに期待できる.本稿では,脳梗塞モデル動物における咬合・咀嚼機能と脳機能との関係について研究した内容を紹介するとともに,今後の展望について述べる.</p>
著者
飯田 祥与
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.369-373, 2016

<p> 口腔内衛生状態・咬合関係などの咀嚼機能が認知症の状態に関連することが臨床研究として報告されており,現在に至るまで咀嚼機能と高次脳機能との関連性について多岐にわたる研究が進められている.</p><p> 咬合支持の喪失と回復が高次脳機能に与える影響について,現在までに発表されている研究に加えて,我々が行った迷路課題によって海馬に発現する遺伝子をDNA microarrayを用いて網羅的に解析して記憶関連遺伝子を選択し,迷路課題実施によるこの遺伝子発現に対して歯の欠損や咬合支持の回復が及ぼす影響について,定量的に検討を行った研究を紹介する.</p>
著者
大野 晃教 木本 克彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.364-368, 2016

<p> 日本の高齢者人口が増加するにつれて,認知症患者は増加の一途を辿っている.認知症は記憶障害などの中核症状を呈する疾患で,患者本人のみならず患者家族の日常生活に多大な影響を与えるため,予防対策が必要とされている.近年,疫学調査や咀嚼不全モデルを用いた動物実験により咀嚼機能と脳機能,特に認知機能の関連性が注目されている.このようなことから本稿では,咀嚼と認知機能の関連性を調べるために我々がこれまでに行ってきた,脳内の神経伝達物質と活性酸素種の変化を調べた基礎研究とfMRIを用い補綴装置を装着したときの脳の賦活を観察した臨床研究を紹介する.</p>
著者
服部 佳功 池邉 一典
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.119-120, 2016 (Released:2016-05-26)

これまで補綴歯科は,器質的咀嚼障害を対象とし,形態の回復イコール機能の回復と言う発想で進んできたかもしれない.しかし,要介護高齢者の増加に伴い,歯や義歯が良い状態でも,咀嚼や嚥下がうまくできない人の治療を行う機会が増えてきている.適切な咀嚼機能評価に基づいた食品選択も,我々の手に委ねられるようになってきている. 農林水産省が「新しい介護食品」を制定したことを踏まえ,本特集が,学会員が世の中の流れを知り,歯科補綴の効果と限界を整理し,食品科学と補綴歯科学の双方が協同し要介護高齢者の食を守るために考える機会になればと思っている.
著者
小林 義典
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.189-219, 2011-07-10 (Released:2011-09-01)
参考文献数
370
被引用文献数
2 3

軟らかくて咀嚼回数が少ないファーストフードや健康補助食品の多量摂取,朝食の欠食などによる不十分な咀嚼は,激変した社会環境を背景として健康に多大な影響を及ぼしている.一方,近年の研究では,食の文化に基づいた歯応えと風味がある食物の十分な咀嚼は,心身の成長の促進,脳の活性化とリラックス作用,食物の発がん物質の発がん性の減弱,活性酸素の消去,肥満の抑制,糖尿病治療効果の向上,運動機能の向上,骨粗鬆化の抑制,脳の損傷や老化のリハビリテーション効果などにつながることが確認または示唆されている.また,この前提条件として,健全な咬合の必要性が強調されている.今後の健康,医療,福祉を展望すると,歯科臨床が主な目的とする咀嚼機能の回復とその維持は不可欠であり,それを標榜してきた日本補綴歯科学会には,重大な責務があるといえよう.具体的に,科学的根拠に基づいた行政施策が実施されるためには,咀嚼機能の診断の確立とその呈示とともに,医学,栄養学,薬学,理工学などとの密に連携した研究と臨床の推進が必須であり,特に広範な領域を専門とする日本補綴歯科学会の担う役割は重大である.
著者
武田 孝之 林 揚春
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.97-107, 2011-04-10 (Released:2011-04-21)

これまでオッセオインテグレーション獲得中は可及的にインプラントに荷重をかけずに保護をすることが最も重要であり,そのためには患者のQOLを一時的に阻害してもやむをえないこととされてきた.また,その間の咬合管理も優先順位としては低い位置にあり,すべてはオッセオインテグレーション獲得後に考慮することが暗黙の了解となってきた.しかし,治療期間中とはいえども患者のQOLを維持することは社会性はもちろんのこと,栄養管理,創傷の治癒の観点からも重要課題である.さらに,多数歯欠損症例においては安定した咬頭嵌合位を治療開始期から維持し,限られた時間のなかで適正な下顎位を模索することも力学的合併症を避ける意味からも重要である.そこで,治癒期間中の咀嚼機能を維持する対応法および注意点を明確にするとともに,プロビジョナルレストレーションと最終上部構造に付与する咬合接触の基本的な考え方を提示する.