著者
矢萩 恭子 松山 洋平
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University
巻号頁・発行日
no.5, pp.217-256, 2010

本研究は、田園調布学園大学が平成18年4月に4年制・共学の保育者養成学科を開設して以来、1年次の必修科目として開講されている「子ども家庭福祉演習」において行ってきた授業内容の一部である「田園調布学園大学・川崎フロンターレ『託児室』」の過去5年間の総括と、そこから導き出された保育という専門分野への導入教育としての意義と課題を明らかにするものである。地域における大学の果たすべき役割の一つとして、保育者養成大学が地域や市民に向けて行っている子育て支援事業は、種々行われているが、プロサッカーチームとの産学協働事業として展開されている本事業は他に例を見ない試みであると言える。限られた時間と空間と人材を用いて、サッカー観戦に訪れるサポーターを保護者とする乳幼児を試合時間の前後にかけて預かることが果たして真の子育て支援と言えるかどうかの議論はもちろん欠かせないが、今回は、科目担当者として託児室実習に参加してきた受講生の参加レポートおよび授業アンケート等をもとに、保育の初学者である1年次生が本実習をどのように経験し、本実習が保育への導入教育としてどのような意義を発揮できているかを見ることとした。その結果、どの年度においても託児室実習は、受講生に強い印象と経験内容を保障していることが確認され、託児室実習から学生が子どもとかかわる上での疑問や困難を感じ、自分自身の体験を通して子どもや保育に関する多岐にわたる学びや気づきを得ていることが分かった。しかし、同時に、学外実習である託児室実習の運営および実施上の課題も否めない。今後も継続していく上での課題としては、大学とサッカーチームとの連絡・協力体制の維持・強化、専任スタッフ・運営事務局・科目担当教員との連携・協力、学科専任教員による引率分担、試合日程に左右される授業内容進行上の問題、2年次以上の経験者の参加希望の受け入れや1年次生との同時参加、事前・事後指導授業のもち方、などが託児室スタッフへのインタビューや、託児室を利用する保護者アンケートなどから明らかとなった。より意義のある導入教育とするために、サッカーチーム・大学・学科の協力を得ながら、改善を積み重ねていくことが今後も求められていると言える。