著者
矢部 滝太郎
出版者
山口大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

がんの発生や悪性化は細胞内タンパク質の過剰なリン酸化により引き起こされるため、これまで分子標的抗がん剤の開発は、タンパク質リン酸化酵素キナーゼの異常な活性化を阻害することにのみ焦点が当てられてきた。しかしながら近年、細胞のがん化・がんの悪性化には、キナーゼ活性の上昇だけではなく脱リン酸化酵素であるホスファターゼの活性低下も極めて重要な役割を果たすことが分かってきた。そのため、このホスファターゼを活性化する抗がん戦略が新たな分子標的抗がん剤創薬において有効であると考えられる。細胞内の主要なセリン/スレオニンホスファターゼであるProtein Phosphatase 2A (PP2A)は重要ながん抑制因子として知られており、多くのがんにおいて細胞内PP2A阻害タンパク質の発現上昇によるPP2A活性の低下が観察されている。そこで本研究課題では、細胞内PP2A阻害タンパク質であるSETとPME-1によるPP2A阻害機構を解明し、これらを標的としてPP2A活性を回復させるPP2A活性化剤の抗がん効果の立証を目的とした。今年度はSETに関して、胃がんにおいてSETが、がんの発生や悪性化に重要な役割を果たしていることを明らかにし、またその分子機構を解明した。またPME-1に関して、我々は細胞内のPP2Aのメチル化レベルを正確に測定する方法を確立した。さらに、野生型および変異型PME-1のリコンビナントタンパク質を用いてPME-1の機能解析を行い、PP2AcとPME-1の相互作用と脱メチル化活性の関係を明らかにした。本研究で示した原理は、免疫沈降法を用いてPP2AcとBサブユニットの結合を評価する際にも重要であり、PP2A複合体の制御機構を解析する上で極めて重要な知見である。