著者
矢野 重文 多田 昭 松田 春菜
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.29-37, 2013

徳島県阿南市の石灰岩地で採集されたムシオイガイ亜科貝類を精査したところ,クチキレムシオイガイ属Cipangocharaxの未記載種と判断されたので,これを記載した。Cipangocharax ananensis n. sp. アナンムシオイガイ(新種,新称)殻高 2.16 mm,殻幅 3.79 mm(ホロタイプ)。殻は扁平な円錐形で螺管は円く膨らむ。胎殻は1.7層,平滑で黄白色~薄い赤褐色を呈する。後生殻は2.0層で成長脈が密に現れる。頸部のくびれは緩く,頸部から比較的長い呼吸管が縫合に沿って後方に伸びる。殻口は大きく,斜めのハート形を呈し,殻口縁は肥厚してやや外方に広がる。殻口上部は湾曲した外唇縁によってやや扁圧される。内唇の壁唇部は体層に密着し,軸唇縁に向けて屈曲する。蓋は石灰質で厚く,直径約 1 mm,厚さ 0.4 mmの円柱形を呈し,周縁に溝を有する。内側はキチン質の膜で覆われ,光沢を持ち,中央部には僅かな突起様のふくらみが見られる一方,外側は角質の膜で覆われ,中央部がわずかに凹む。本種は,同じく徳島県で採集されるクチキレムシオイガイ属のクチキレムシオイガイC. biexcisus及びトウゲンムシオイガイC. kiuchiiと殻形が類似するが,これらに比べて僅かに大型で,上部が扁圧されたやや横広で大きな殻口を有する点,目立たない突起を中央に持つ石灰質の厚い蓋を有する点によって区別でき,クチキレムシオイとは殻口壁唇部と体層が接合する点でも区別できる。本新種の発見により,日本には本種を含めてクチキレムシオイガイ属6種が認められることになり,このうち徳島県からのみ見つかっている種は3種となる。殻形の比較に用いたクチキレムシオイガイについては,徳島県指定希少野生生物に指定されているため,許可を得て採集を行った。