著者
石場 厚
出版者
愛知県警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

○研究目的2-アミノ-1-フェニル-プロパン-1-オンを基本骨格とするカチノン系薬物にはフェニル基に置換基が導入されたものが数多く存在する。しかしながらオルト、メタ、パラといった位置異性体の違いにより指定される法律が異なることもあり、これを正確に識別できなければ誤認逮捕につながりかねない。薬物分析で用いられるガスクロマトグラフ質量分析においては、位置異性体の識別が困難な場合が多く、他の分析法を併用する必要がある。そこで芳香族置換基の位置異性体を識別する方法として呈色反応に着目した。○研究方法今回、検討した薬物はα-PVP及びそのフェニル基に置換基(メチル基、メトキシ基、メチレンジオキシ基)を導入した化合物8種類の計9種類である。メチル基、メトキシ基が導入されたものについては当研究所で合成した。またメチレンジオキシ基が導入されたものについては当研究所保有の薬物を使用した。これらの薬物の溶液を呈色板に滴下し、風乾後、呈色試薬を滴下し室温で5分反応させた後、色の変化を観察した。呈色反応に使用した試薬は、マルキス試薬はじめ21種類の試薬を検討した。○研究成果メチル基が導入された薬物についてはいずれの呈色試薬を用いてもオルト、メタ、パラの異性体を識別することは困難であった。メトキシ基のものでは硫酸がオルトのみを呈色し、マルキス試薬がオルト及びメタを呈色することからこれらの呈色試薬を組み合わせることで異性体の識別は可能であった。メチレンジオキシ基のものではマルキス試薬で2, 3-体と3, 4-体を識別することが可能であった。カチノン系薬物はカルボニル基の電子吸引性により芳香環の反応性が低下しているため、電子供与性置換基が導入されている薬物については呈色反応による位置異性体の識別は可能であると考えられる。
著者
石場 厚
出版者
愛知県警察本部刑事部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年、脱法ハーブと呼ばれる薬物の乱用が大きな社会問題となっている。脱法ハーブとは、合成カンナビノイドと呼ばれる大麻と作用が類似した成分を添加した植物片のことで、これをタバコ状にして喫煙、もしくはお香のように焚き、気化した成分を吸引摂取する。したがって体内には合成カンナビノイドの他に、その燃焼生成物も同時に摂取しているものと考えられる。合成カンナビノイドの薬理作用や毒性または代謝を明らかにするうえでも、実際には何を吸引しているのかを明らかにする必要があるため、今回、いくつかの合成カンナビノイドの燃焼生成物の成分を明らかにすることとした。はじめに、実際の脱法ハーブ吸引を想定するべく、合成カンナビノイドを市販の紙巻きタバコに添加した模擬試料を作製し、燃焼実験を行った。実験に用いた合成カンナビノイドは10種類で、発生した煙をジクロロメタンで回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置で煙の成分をそれぞれ詳細に検討した。つぎに、合成カンナビノイドを、高周波熱分解装置(キューリーポイントパイロライザー)を用いて熱分解した。熱分解に用いるパイロホイルの種類については、タバコの燃焼付近の500℃から900℃の範囲のものを検討し、燃焼実験の結果と比較したところ、汎用的に用いられる590℃のパイロホイルを用いて熱分解すれば、実際の燃焼を再現できる可能性を示した。今回の研究により、多くの合成カンナビノイドは熱に対して比較的安定であったものの、ある種の骨格をもつ合成カンナビノイドについては熱に対して不安定なことがわかった。これらの合成カンナビノイドについては、薬理作用や毒性または代謝の研究の際、その燃焼生成物についても合わせて検討する必要があると考えられる。