著者
石尾 絵美
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 = Yokohama journal of technology management studies (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-49, 2008-03

本稿は、障害の社会モデル理論の洗練を目指すとともに、その実践レベルへの応用を模索するものである。日本において障害学会が設立されて以降、障害学の中心理論である社会モデルは、多くの人々に受け入れられてきたかのように感じられる。しかし、そこで取り上げられる社会モデルというのは、「障害問題の負担は個人ではなく社会が負うべきである」と主張するものだ、という程度の認識でしかないのではないだろうか。社会モデルがただのスローガンではなく、実践に応用可能な理論となるためには、理論的探求が必要不可欠である。 そこで、個人モデルと社会モデルの一般的な説明をまずは紹介し、その後で、イギリス社会モデルに対してなされた障害学内外からの批判、それに対しての応答を概観する。そして、今まで障害者運動の側面でのみ取り上げられることの多かった、アメリカ障害学にスポットを当て、アメリカ社会モデル理論の分析を行う。また、国内においての議論を取り上げ、その中から誕生したディスアビリティの新たな解釈を模索した主張を考察する。 そして最後に、障害学と既存の障害研究との関連について考察し、社会モデルの実践レベルへの応用という課題につなげていきたいと考える。既存の障害研究との区別を明白にしなければ、障害学はやがて吸収されてしまうだろう。実践現場での支援を想定し、そこにいかして社会モデルが応用可能なのかを模索する。