著者
石山 巳喜夫
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.1054-1071, 1984-12-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
35
被引用文献数
1

従来, 歯鯨類のエナメル質に関する組織学的研究は非常に少なく, 未知の部分がきわめて多い。今回著者は主に走査型電子顕微鏡を用い, 現生歯鯨類6科7種のエナメル質の組織学的構造について検索を行なった。マッコウクジラのエナメル質は歯の先端部のごくわずかの部位に局在し, 無小柱エナメル質である。ツチクジラのエナメル質は非常に菲薄な無小柱エナメル質で, 3-5μmの厚さしかなく, 哺乳類としては特に発達の程度が低い。一方, マダライルカ, マゴンドウおよびラプラタカワイルカはいずれも有小柱エナメル質を有し, そのprism patternは種類あるいはエナメル質の部位により変化に富んでいる。またスナメリのエナメル質はエナメル・ゾウゲ境付近においては小柱構造が明瞭であるが, 中層部において不明瞭となり表層に至る。イシイルカのエナメル質は無小柱, 有細管エナメル質で, 異状な低石灰化度を示す。すなわち歯鯨類のエナメル質は各科ごとに非常に多様な組織構造を呈している。また一般に大型種において発達が悪く, 小型種においてよい傾向にある。