著者
石川 友香 Ishikawa Yuka イシカワ ユカ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.7, pp.193-204, 2002-03

論文本論文の目的は「日常的交わり」に焦点を当てながら、ヤスパースの教育思想を問い直していくことである。「交わり」概念はヤスパース思想の中心概念の一つであるが、先行研究の多くはその実存的側面のみを強調し、そこに至るまでの日常的な交わりを二次的なものと見なしてきた。しかし毎日の生活の中で教育という営為が不断になされ、教育がそこに根づいたものである以上、日常的交わりの意味を問うことは不可避といえる。ヤスパースによれば、人間は「可能的実存」であるが、それはあくまでも「可能的」であって、常態ではありえない。実存への途上にある「非実存的」存在、つまりあたりまえの人間同士が生み出し、社会との深い連関のもとでなされる教育の中にはっねに対立や矛盾がっきまとう。こういった対立や矛盾は、ただ解消されることだけが問題なのではない。その過程における人間相互のせあぎあいの中に、新たな教育関係を構築する芽が見いだされる。つまり日常的交わりは、実存的交わりと分断されるものではなく、それを常に内に含みながら存在しているといえるのである。