著者
石川 雄健
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.146-151, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
7

近年では生活環境の向上に伴い,以前では気にならなかったニオイが,不快な悪臭として取り上げられる様になってきている。特に日本ではニオイに対する反応が過剰なほどに敏感になっている。臭気の感じ方には個人差があり,ある人には不快な臭いが他の人には不快に感じないということが発生するため,臭気の根本的な対策は非常に難しい。パルプ製紙工場で発生する臭気は閾値が非常に低く,僅かな量でも不快に感じやすい傾向がある。クラフトパルプ製造時には反応により硫黄系の悪臭が発生するが,その他の工程では微生物による嫌気呼吸によって悪臭が発生する。その中でもデンプンが原因となる有機酸系悪臭,硫酸バンドが原因となる硫黄系悪臭がある。有機酸系悪臭は毒性が低く,工程内の腐敗やスライムの発生に伴って発生するため,製品の品質低下を防ぐことを目的に,防腐剤やスライムコントロール剤による殺菌処方が必要となる。一方,硫黄系悪臭は硫化水素が主体であり,引火性,腐食性,有毒性もあることから,臭気物質の減少を目的に,規模に応じて殺菌処方と消臭処方の両面で考える必要がある。本稿では,これまでの研究成果によって特定した様々な工程で発生する臭いの種類および原因を開示し,解決に至った事例の一部を報告する。