著者
石川 雅典 小野澤 章子
出版者
秋田桂城短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本プロジェクトは、季節労働の供給変化と規定要因、ならびに供給変化と送出地域の社会経済構造との関係について、北海道内の沿岸漁業地域である椴法華村(現在の函館市椴法華地区)を対象として追究したものである。対象地における季節労働、とりわけ出稼ぎ労働の調査研究に基づいて知見を整理すると次のようになる。1.供給変化(減少)は、需要側における採用条件の厳格化が直接の要因であった。かつて供給側で広範にみられたグループ就労は小規模化・個人化がすすみ、地縁関係を契機とした社会空間とネットワーク形成の変容が示唆された。2.一方、需給のミスマッチが生じていて、供給側における送出母体の衰微がもう一つの要因として指摘できる。母体の衰微は対象地の基幹産業であり、戦後の送出母体であった沿岸漁業のあり方と深い関係がある。つくり育てる漁業が進展する中で、漁業資源の限界性と動力船の所有/非所有を境界とした漁業層の階層化とが一層顕著になり、沿岸漁業の縮小化がすすんでいる。在村する若年世代はほとんど漁業に就業しておらず、生活スタイルや地域への関心という点でも他の世代との差異が著しい。対象地は、沿岸漁業を中心とする多様で異質な地域へと移りつつある。3.筆者らはかつて漁業と出稼ぎとによる職業分化の状況を見出した。対象地の生活と地域はこれによって維持されてきた。しかし今日、対象地では職業分化とは次元の異なる局面を迎えつつある。この局面は展開次第によってはかなり以前より予測できたことではあったが、供給変化とともにあらわれた新たな局面は従来の枠組みによる漁業の存続や局地的地域社会の維持が困難になりつつあることを意味している。