著者
石浦 嘉之
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.87, no.11, pp.1221-1230, 1996-11-20
参考文献数
34
被引用文献数
6 16

(目的)脳血管障害後の膀胱機能障害に関する実験的研究はこれまでに報告がなく,その病態は不明な点が多い,そこで,脳梗塞モデルを作成し検討した。(方法,結果)S-D種雄性ラットの左側内頸動脈より中大脳動脈起始部へ4-0ナイロン糸を留置して左側中大脳動脈領域の脳梗塞を作成し,覚醒,拘束下にて膀胱内圧測定を行った。塞栓より14,21,28日後の脳梗塞群の膀胱容量は非梗塞群の半分以下であった。膀胱容量は梗塞巣の面積と負の相関を示した。脳梗塞群ではoxybutynin, nifedipineの投与にて膀胱容量の有意な増大を認めたが,非梗塞群では有意な増大はみられなかった。atropineの投与により,両群ともに膀胱容量の増大,残尿量の増大,最大膀胱収縮圧の減少がみられたが両群間の有意差はなかった。利尿筋切片を作成し,in vitrcでatropineとα,β-methylene ATP前処置後の経壁電気刺激による収縮反応を測定した。その結果,脳梗塞群と偽手術群との間では神経収縮におけるムスカリン作動性成分とプリン作動性成分の構成比に相違はみられなかった。(結論)カノレシウム拮抗剤の投与により,脳梗塞ラットに有意の膀胱容量の増大が認められたのは,末梢の神経筋系に変化が生じたためでなく,中枢での薬剤感受性が変化したためと考えられた。また,これまでoxybutyninは末梢作用が主と考えられていたが,脳梗塞では中枢作用も存在すると考えられた。このモデルは,ヒト脳血管障害による排尿障害の病態や治療法の解明に有用であると考えられた。