- 著者
-
石田 勝世
- 出版者
- 日本印度学仏教学会
- 雑誌
- 印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.3, pp.1210-1215, 2019-03-25 (Released:2019-09-30)
- 参考文献数
- 4
本研究の目的は,コンピュータによるテキスト校訂を行うためのアルゴリズムを開発することである.この目的に向けて,本論文では,テキスト校訂のうち「テキストの系統分類」と「校合のための底本の選択」の作業を処理するアルゴリズムを提案して,蔵訳『賢愚経』第2章に適用した結果について報告する.すでに生物系統学を利用した系統推定(系統樹の作成)について報告しているが,本論文ではテキスト校訂への拡張を試みた.生物系統学を利用した系統推定では各テキストの位置づけが系統樹の上で可視化される.そこで,「アーキタイプは系統樹のルートに近い」という前提に基づいて系統推定手法をテキスト校訂に応用する.アーキタイプに近いテキスト(底本)を見つけるためには,テキストが系統樹のルートに近づくように異読の読みを選択すればよい.試行錯誤による探索でも可能だが,時間と労力を要する.試行錯誤に代わる何らかのヒューリスティックスが必要である.本論文では多数決の原理を導入して底本を求めた.ここで求めた底本は他のテキストと校合し読み(異読あるいは新しい読み)を選択して,最終的な校訂テキストを作成するが,この作業についてのアルゴリズムの詳細は未だ検討中である.