著者
石長 孝二郎
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.145-153, 2019-12-01 (Released:2020-02-06)
参考文献数
29

【目的】がん治療中患者の食事苦情の訴えを考察するための予備的検討として,女子大学生を対象に,食べ物の咀嚼中に発生したニオイをレトロネーザル経路でどの程度感知しているか,また,“おいしさ”の評価との関連を検討した。【方法】食材試料はグレープフルーツ,煮魚,ヨーグルトとし,さらに各々に香味野菜パクチー液を混入した計6種類とした。ニオイ分析はにおい識別装置を用いた。観察研究は鼻栓をした摂食状態と鼻栓をしない摂食状態でパクチーの感知の評価,および鼻栓をしない摂食状態でおいしさの評価をVisual Analogue Scaleで実施した。【結果】鼻栓をしてレトロネーザル知覚を封鎖することで,すべての食材試料中でパクチーの感知評価が大きく低下した(p<0.001)。また,パクチーの感知とおいしさの評価には負の相関が認められ,パクチーを強く感知した場合にはおいしさの評価が低下した。【結論】ヒトの訴える味の感想は,味覚感知だけではなく,咀嚼・嚥下時に空気中に拡散したニオイが口腔から咽頭,そして鼻腔へと抜けた呼気によるレトロネーザル経路による嗅覚の感知もあり,味覚と混同しやすいことがわかった。また,ニオイに誘発される嫌悪は,ニオイの全体から特定の嫌悪を感じるニオイを認識した時においしさの評価が低下することが考えられた。
著者
石長 孝二郎
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.99-108, 2018-10-01 (Released:2018-11-06)
参考文献数
29

【目的】がん治療対策食を考案するための予備的検討として,女子大学生を対象に,食材の温度とアンモニア混入時の食物臭に対する快・不快の相違を検討した。【方法】観察研究用の食材試料は煮魚煮汁とグレープフルーツ果汁,さらに各々に0.1%アンモニアを混入した試料の計4種類とした。食材試料の温度は 25°Cと 55°Cとし,ニオイ分析はにおい識別装置を用いた。また,女子大学生へのニオイに対する快・不快の評価はビジュアルアナログスケールで実施した。【結果】食材試料を55°Cに加温すると,煮魚煮汁は不快な気分となるが,グレープフルーツ果汁は快(心地よい)な気分のままであった。次に室温 25°Cで,試料に0.1%アンモニアを混入すると,煮魚煮汁は不快な気分が強くなるが,グレープフルーツ果汁は快な気分が維持されていた。しかし,今まで快な気分を維持していたグレープフルーツ果汁が0.1%アンモニアの混入と 55°Cの加温の2つの条件が加わると急激にビジュアルアナログスケール得点の低下が起こった。【結論】グレープフルーツ果汁は悪臭を中和もしくはマスキングする可能性が示されたが,その反応はある一定レベルの状態でプラトーに達し,残った悪臭が加温により上昇気流にのり,嗅上皮の嗅細胞にたどりつき,主観的な快な気分を打ち消した可能性が考えられた。